運命の赤い糸が見えるようになった炭治郎の話。あとほぼ描写ないですが、ぎゆしの要素あります。
約15000字/原作軸
突然だが、「スキの糸」が見えるようになった。
原因はわからない。単独任務で鬼と戦いで首を切った後、最後の悪あがきで血鬼術をくらった影響なのか、はたまた血鬼術をくらった衝撃ですっ転んで後頭部を打った影響なのか分からない。
しかし俺は目が覚めたら「スキの糸」が見えるようになっていた。ここでいう「スキの糸」は俺が戦いの最中で見出す「隙の糸」のことではない。人と人を結ぶ、「好きの糸」のことだ。
「なるほど、大変興味深いですねぇ。それで体に不調は感じませんか?」
「今のところ視界がちょっとうるさいくらいで実害はないです」
「なるほどなるほど」
俺はしのぶさんに頭や目を見てもらいながら、見えるようになった経緯と、糸が「好きの糸」であると思った理由を説明した。この糸が見えるのに気がついたのは鬼のいた山から人里に戻ってからで、最初は驚いた。殆どの人間に糸が垂れているからだ。
その糸はおそらく恋人同士の男女だったり、夫婦だったりに繋がっていた。けれど夫婦らしき人たちなのに糸が繋がっておらず、それぞれ別方向に糸が向かっているのもあった。失礼ながら匂いを嗅ぐと談笑しあっているのに嫌いあってる匂いがして怖くなった。これはつまり、長持ちはしないのであろう。すでに新たに恋い慕う人がいるのか、はたまたこれから現れる人に繋がっているかは分からない。
けれど恋など到底早そうな童たちに糸が繋がっているのを見るとこれから好きあうものに繋がっている可能性も十分にあった。
そして妻を鬼にやられて鬼殺隊に入ったという隠の人は糸が地中へと向かっていた。これはおそらく故人となった奥方がいる根の国へと繋がっているのだろう。
俺は蝶屋敷にたどり着くそれまでの観察の積み重ねでこれは「好きの糸」なのではないかと思った次第だった。
「・・・・・・なんですけど・・・・・・」
「どうしました?」
「しのぶさんを見たら、ちょっと違うかもという思いもありまして・・・・・・」
蝶屋敷にて血鬼術をくらった事と、頭を打った事と、謎の糸が見えるようになったことをしのぶさんに説明していたが、俺の手当てをするしのぶさんの両手にそれぞれ糸が繋がっているのがチラチラ見えた。
右手の小指には赤く細い糸が。左手の小指には血が滴る血塗れのような糸がそれぞれ付いている。これはいったいどういうことだろうか。
「私を見たら?どうしてですか?」
「えーと、その・・・・・・言っていいか分からないんですが・・・・・・」
「どうぞどうぞ。疑問に思ったことは言ってください。血鬼術に罹っているのかもしれないのですから、些細な情報でも必要です」
しのぶさんの言葉に、俺はひとつ息を吐くと不快にしてしまうかもしれないと思いながらも正直に見えているものについて告げた。
「・・・・・・私の両の手に、それぞれ糸が繋がっていると。ふむ。二股をかけるとそうなるのでしょうか?」
「えっ」
「冗談です。しかしひとつは血塗れですか。なんだか不吉ですねぇ」
そんな風に言いながらもしのぶさんは笑っている。するとトントンと診療室の扉を誰かが叩く。その音を聞きながら、俺はしのぶさんの右手に注視していた。なぜなら右手の糸が大きく動いたからだ。
「どうぞ」
「・・・・・・邪魔する」
入ってきたのは冨岡さんだった。冨岡さんはなにか風呂敷を持っていた。生姜と醤油、そして甘い匂い。佃煮か何かだろうか。しかし風呂敷の中身よりも俺はもっと気になってしかたないことがあった。
「あら、冨岡さん。どうされました?見たところ、負傷されたようには見受けられませんし・・・・・・。冨岡さんは怪我してもギリギリまでこちらには来ませんし。もっとも来て欲しい時に来てくれなくて、なんでもない時に来るんですね」
さらりと混ぜられる毒だが、要するに「少しの怪我でも治療に来い」としのぶさんは言っているのだろう。相変わらず優しい人だ。冨岡さんは・・・・・・分かってるのか分かってないのか微妙な顔つきですっと風呂敷を差し出した。
「・・・・・・土産だ」
「あらまあ。覚えてたんですか?」
「・・・・・・好物くらい覚えてる」
冨岡さんはそう言うと出て行ってしまった。話の内容から考えるに、土産の中身はしのぶさんの好物なのかもしれない。任務の近くで見つけたのか、約束でもしていたのか。どちらにせよ、冨岡さんが遠ざかるとしのぶさんの右手の赤い糸は静かになった。
「ふふふ。お土産を頂いてしまいました。炭治郎君にもお裾分けしますね。なんだか大量にあるみたいですし。まったく、佃煮をこんなに大量に貰っても困るんですけどねぇ。日持ちも考えねばなりませんし・・・・・・炭治郎君?」
しのぶさんの声に俺は顔があげられない。見てはいけないものを見てしまった気分だったからだ。顔がカッカとして熱い。
「・・・・・・炭治郎君、顔が真っ赤ですがどうされました?」
「その・・・・・・不躾に見てしまって、すみませんでした」
俺がそう言うと、しのぶさんは何を言いたいのか思い至ったのか首から耳まで真っ赤にした。俺はその姿に珍しいと目を丸くする。しのぶさんは両の手で顔を覆い、か細い声で「・・・・・・繋がってましたか?」と聞いた。
俺がそれに頷くと「・・・・・・内密にしてください」と頼まれたので了承した。そもそも誰に言えばいいのかも分からない。
しばらく2人とも沈黙していたが、しのぶさんは己を立て直したのか鉄壁の笑顔で顔を上げた。そしてふむっと言うと冨岡さんが持ってきた風呂敷を大事そうに丁寧に膝の上に置く。
「さて、糸についてですがまるで巷で聞く、『運命の赤い糸』のようですね」
「運命の赤い糸?」
「はい。運命の相手とは赤い糸で繋がっているという話ですよ。その運命が愛か恋か、それとも憎悪かは分かりませんけど、大概は愛や恋からしいですよ」
しのぶさんはそう言うと両の手の小指を揺らした。右の小指はとびらの向こうへと続いている。そしてもう片方は窓の外へと続いている。血塗れの糸、いったいそちらは誰と繋がっているのか。しのぶさんの言うように憎悪がしっくりくる糸ではあった。となると、繋がる先は・・・・・・。
「こちらの先、辿ってみたいですねぇ」
薄ら笑いを浮かべるしのぶさんは強い怒りの匂いがした。俺がぐっと押し黙るとしのぶさんは「冗談です。まだその時ではないので」と笑った。
****
しのぶさんに「なにか変化があったら来てくださいね」とお裾分けの佃煮と一緒に部屋を放り出された俺は蝶屋敷の廊下を歩いていた。すれ違う隊士や看護師たちもみなそれぞれ糸が絡んでいる。それらはどこかへと向かっていて、しのぶさんが言うように運命の相手と繋がっているのかもしれない。
「できれば、繋がってる意味が『好き』ならいいのだが・・・・・・」
しのぶさんの『好き』の糸は間違いなく右手の方だろう。しかしそうなると左手はやはり、『憎悪』なのだろうか。相手と繋がってしまうほどの憎悪。そんなものがしのぶさんに繋がっているのを見ると悲しくなる。
しかし、今のところははっきりと糸の意味は決められない。おそらく程度の話なのだ。もしこれを確定させることができるとしたら、それは俺のこの右手の糸の先を見てからだろう。
俺は自分の右手小指を持ち上げ、そしてながーく窓の外の何処かへと繋がっているのを見る。この俺の糸の先は俺の愛しい恋人の元へと繋がっている筈だ。そう、我妻善逸の右手小指に。
何を隠そう、俺は善逸と恋仲である。
同期として鼓の屋敷から行動を共にしてその人となり、そしてその優しさに触れて俺の気持ちは育っていった。
男同士であることが大きな問題として横たわっていたが、禰豆子を元に戻すという目標がある俺としては恋をできただけで幸せだった。なぜなら俺は禰豆子より誰かを優先できないからだ。禰豆子を人に戻すまで、禰豆子が人として幸せになるまで、俺は他の誰も優先できない。そんな俺が誰を好きになって結ばれるというのか。
そんな俺が好きになったのは男である善逸。しかも善逸は女性が好きだ。よく女性に求婚しては振られて、禰豆子に熱をあげては1人で転がってる男だ。善逸を好きになってしまったが、これは叶う見込みはない。ということは俺が一方的にいくら好きでいてもいいということだ。
恋というのは初めてだったがこの気持ちは俺をずいぶんと満たして幸せな心地にしてくれた。時折、どうしても触れたくなる欲求があってそれを抑えるのが大変だったけどそこは長男だ。なんとかした。
挨拶をする、一緒に過ごす、笑顔をみる。
これだけで俺は生きてる実感と安らぎと幸福を得られた。
また頑張ろうという気持ちになれた。
だから叶わなくても良かったのだが・・・・・・。
「・・・・・・あのさぁ、炭治郎。その音、もう少し抑えてくれない?・・・・・・その、流石に恥ずかしくなってきて炭治郎の顔見れないよお」
なんて顔を真っ赤にして半泣きで言ってきた善逸から恋の匂いを嗅ぎ取ったらもうダメだった。全く叶わぬ恋でもいいとかは嘘だった。
そこからなんやかんやあって恋仲になったわけだが、間違いなくこの俺の赤い糸は善逸に繋がってるはずだ。それを確認できたら、この糸はしのぶさんの言うように『運命の赤い糸』なのだといえる。
しかし、善逸はいま任務でていてまだ戻っていないらしい。だからこの糸の先を確認するのはもう少し先か・・・・・・それとも血鬼術だとしたら効果が切れて見えなくなるかもしれない。
まあ、今の俺には特に何ができることもない。
ただ、善逸の無事を祈るだけだ。
・・・・・・この糸の先に善逸がいるのか。
辿れば間違いなく会いに行けるなぁ、なんてーー。
「あ!炭治郎!炭治郎はもう戻ってきてたのか!入れ違いにならなくて良かったよ?!ねえねえ聞いてよ!俺もう今回も凄い頑張ったよ!すっごく怖くて死ぬかと思ったし、実際死んだと思ったけど・・・・・・顔怖っ!!何!?なんなの!?ひいっ!!何!?俺の右手がなに!?右小指がなに!?なんで小指掴んでマジマジ見てるの!?何があるの!?って炭治郎ーーーー!?どこ行くのーーー!?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!
ガラガラ!!ピシャン!!
「しのぶさん!!糸は『運命の赤い糸』じゃありませんでした!!」
「あらあら、炭治郎君。廊下は走らないでくださいね?」
「すみません!!ですが!ですが!!違ったんです!!」
「糸は『運命の赤い糸』ではないと?何故です?何故そう思ったのですか?」
「俺の!!俺の糸が!!善逸に繋がってなかったんです!!」
「あらまあ!えーと、それは不思議なことなんですか?」
「全くもって不可解です!!だって!だって俺と善逸は恋仲なんです!好き合ってるんです!お互いが!お互いが唯一だって言ったのに・・・・・・!!
お、俺の糸が・・・・・・俺の糸が・・・・・・善逸に繋がってない・・・・・・」
俺はそこまで言うと床にへたり込んだ。今でも信じられない。善逸の右手小指に俺の糸が繋がっていなかった。
じゃあ、俺のこの糸はどこに繋がってるんだ?誰にだ!?
俺の糸もしのぶさんが言うように『憎悪』の糸なのか?
それなら鬼舞辻に繋がってるのだろうか?
善逸と繋がってないなら是非ともそうであって欲しい。
けど俺の糸はしのぶさんみたいに血に塗れてなくて、しのぶさんと冨岡さんを結ぶ糸と同じ姿だ。
「炭治郎君。落ち着いてください。まだその糸の意味ははっきりした訳ではないでしょう?」
「・・・・・・はい」
「ちなみに善逸君はどうだったんですか?糸は?出てましたか?」
「・・・・・・出てませんでした。なにも・・・・・・」
善逸の右手小指に糸はなかった。俺に伸びる糸がなかった。
誰にも繋がっていない小指。
そのことだけが、ほんの少しだけ俺を安堵させた。
善逸は誰とも運命を迎えない。
勝手に誰かに連れて行かれることはない。
運命の人に会えたからと、俺の元を離れて誰かの手を取ってどこかに行くことはない。
むしろそれは俺だ。
俺の手に絡みつく糸が恐ろしい。
この先にいる誰かに出会ったら、俺は変わってしまうのだろうか?
俺の視界に映る赤い糸。
右手小指から流れ出る赤い糸。
何故、何故、何故!!
善逸に繋がってないなら、こんなものーーー!!
****
「あ!炭治郎、起きたか?大丈夫か?気持ち悪くない?」
「あれ・・・・・・?」
俺はいつの間に眠っていたのか、布団に寝かされているようだった。服も隊服から浴衣に変わっている。もしや全て夢だったのか?そう思って体を起こし、右手を見ると見事に赤い糸が部屋の外へと伸びている。そして俺の右手小指はぎっちりと包帯が巻かれていた。
「・・・・・・夢じゃない」
「いや、夢じゃないよ!何やってんのよ!しのぶさんに呼ばれて行ったらビビったわ!!炭治郎が気絶してるし、なんか右小指が折れてるし!!しかも自分で折ったって話だし!!ほんとに何してんの!!」
善逸の言葉にどうやら錯乱して自分で小指を折ったのだと理解した。気絶したのは何故だろうか。首のあたりが痛いから、しのぶさんの手刀でも食らったのかもしれない。
「すまない・・・・・・」
「いや、まあ、うん。心配しました。もうやめてよ?自傷行為とかほんとやめて?そんなことされるくらいなら俺が殴られたほうがマシよ」
「俺が悪いのに善逸を殴る訳ないだろう!!」
「ひえっ!」
突然の俺の怒鳴り声に善逸は飛び上がり半泣きになった。その姿に俺は苦しくなる。善逸に怒鳴ってしまった。善逸は何も悪くないのに、俺を心配してくれているのに、怒鳴ってしまった。
俺が、俺が悪いのに。善逸を好きなのに、善逸じゃない誰かと糸を結んでしまっているなんて、そんなの・・・・・・裏切りだ。
「ごめん・・・・・・」
「いや、いいけど・・・・・・。どうしたの炭治郎。本当に何があったんだよ」
善逸は俺の横にしゃがみ込むと覗き込むようにして俺を見る。そしてそっと額を撫でようと右手が伸びてきて、俺はそれが耐えられなくて弾いてしまった。
パシンと軽い音がして、ブワッと善逸から俺を心配する濃い匂いと、その中に微かに混ざる切ない匂い。俺はますます罪悪感が募った。善逸を拒んでしまった。善逸は俺を心配してくれているのに。
「・・・・・・あ、禰豆子ちゃん」
カリカリと箱を内側から引っ掻く音がして、俺はびくりとした。禰豆子には申し訳ないが、今の状態の俺は冷静じゃない。1人きりになりたい。誰とも話をしたくない。
「炭治郎、禰豆子ちゃんと夜の散歩に行ってきてもいい?」
「え、ああ・・・・・・。いいのか?」
「もっちろんだよお!さっ!禰豆子ちゃん!俺と一緒にお散歩行こぉ??」
善逸はそう言って箱を開けると、禰豆子の手を取って部屋を出て行った。禰豆子は俺の方を見て眉根を下げていたが、俺は見ないフリをした。そのことがまた、俺が至らない悪い部分を見つけて胸が苦しくなる。
・・・・・・善逸は優しい匂いがしていた。きっと俺の不安定な状態を察して禰豆子を連れ出してくれたんだろう。禰豆子がいれば、俺は長男として毅然としていなければならない。
「善逸に気をつかわせてしまった・・・・・・」
俺は大きなため息をつくと、添木をされて包帯ぐるぐる巻きになっている右小指を睨んだ。小指からは変わらずに赤い糸が出ている。俺は引きちぎれないものかと、糸に触れようと試みるが実態はなく空を切るばかりだ。
どうしよう。
これからどうやって善逸と過ごしていけばいいんだ。
俺は善逸が好きだ。
いっとう好きだ。
善逸から目が逸れるはずがないと自覚してるし自負している。
じゃなきゃ四角四面の俺が男を好きになるわけがない。その選択肢にすら気がつかなかった筈だ。なのに善逸は俺を虜にしたんだ。この竈門家の長男であって子孫繁栄についてそれなりに考えなければならない立場の俺を、善逸は虜にしたんだ。
はっきり言って俺は善逸と別れる気なんてない。
死別は・・・・・・したくないがこの職業柄、可能性がないなんて全く言えない。むしろ一般からみればとんでもない高確率の職業だろう。
だから、まあ、死別は仕方ない。
万が一、億が一として善逸が死んでしまったらきっと俺の心の半分は善逸にもぎ取られて死ぬだろう。
俺に残るのは禰豆子を人に戻すという目標と禰豆子の幸せを願うだけになる。あとはもう生きる屍かもしれない。なったことないから想像の域はでないが、最悪を想定しても最悪はさらに上回るものなのはよく知っている。
とにかく、善逸は手放したくない。逃げるという選択肢もなくすくらい囲ってしまいたい。俺には善逸が必要だ。善逸と一緒に生きていきたい。
だというのに。
「なぜ、なんで、俺の指にこんなものがあるんだ!!」
いっそのこと善逸と同じように何もなければよかった。
なぜこんなものが見えるようになったんだ。
頭を打ったせいか?血鬼術なのか?
血鬼術ならば日の光にあたり、数日もすれば見えなくなるだろう。何しろ鬼はもう俺が頸を斬ったのだから。
ああ、でも見えなくなっても見えてしまった事実はなくならない。
見えなくなれば、俺は出会う人出会う人に怯えながら生きるのだ。
この人が俺の糸の先なのかもしれないと、善逸から引き離されてしまうのかもしれないと怯えながら生きるのだ。
これが血鬼術ならば、なんて恐ろし置土産だ。
****
『運命の赤い糸』が見えるようになって、10日が経った。
俺は自分で折った小指の他に、先の戦いで肋を折っていたこともあり、俺は基本的に治療以外は呼吸の訓練くらいしかできない。それをむしろありがたいと思うほどに俺は陽を嫌って室内に篭っていた。禰豆子と一緒に部屋に篭りながら、お手玉をしたり折り紙をしたりして過ごしている。
善逸は塞ぎ込む俺を心配する匂いをさせながら気遣ってくれ、好きなようにさせてくれていた。善逸は任務に行っても軽症で帰ってきていたため、この間に近くでの単独任務を2つこなし、昨日もまた任務に出て行った。無事に済めば今日の昼には戻ってくるらしい。
そのらしいというのは、朝餉を手ずから持ってきてくれたしのぶさんから聞いたものだ。しのぶさんは俺が善逸との間に赤い糸がないと騒いで取り乱してから、よく様子を見に来てくれた。もしかしたら小指を自分で折ったから馬鹿なことしないようにという確認のためなのかもしれない。じゃなければ忙しい柱であるしのぶさんはこんなに頻繁には来てくれないだろう。
しのぶさんは俺に「炭治郎君。日に当たらないと体に毒です。あなたは人間なのですから、お日様は必要なものなんですよ?」と心配な匂いをさせて提言してくれるが、どうにも俺は日の下に出られなかった。日の下に出ないからから、俺は相変わらず赤い糸が見えたままだ。
この蝶屋敷には治療の為に沢山の隊士が訪れるが、誰がきても俺の糸は動きもしなかったし、夜にこの糸の先が気になって恐ろしくなって、辿ってみたことがある。
蝶屋敷の治療着のまま飛び出して、痛む肋を支えながら鬼が出るか蛇が出るかと、夜の街道をひた走った。そしてある程度大きな町が見えた頃、怖くなって道端に蹲った。
あの街に本当にいたらどうしようか。
俺はどうなるのか。善逸は。
どうしてこんなことに。
俺はブルブル震えながら情けなく蹲っていた。
そうしてどれくらいしたのか、香ってきた優しくて大好きな匂いに釣られて俺は顔を上げた。
そこには隊服を着た善逸が、息を切らしながら立っていた。片手には俺の日輪刀を携えている。善逸は「刀も持たずに夜に飛び出すんじゃないよ・・・・・・。めちゃくちゃ探し回ったわ・・・・・・」と咳き込みながらそう言った。
善逸は肋が折れてるからと、俺を背負って蝶屋敷まで運んでくれた。善逸は俺が勝手に出奔した理由も問わず、「帰ったら禰豆子ちゃんやナホちゃんたちに謝れよ。みんな心配してるし、アオイちゃんにもきっと怒られるぞ」とだけ言った。
帰った俺は「怪我した状態で勝手に抜け出さないでください!!」とアオイさんに怒られた。しのぶさんはというも特別、叱ることはせずに「気になることがあるなら、せめて昼間に行かれたらどうです?ちゃんと外出届けを出して付き添いをつけていただければ外にもちゃんと出れるんですよ?」と言ってくれた。
そこから俺はずっと家の中に篭っている。しのぶさんは俺を日の下に出したいようだが、日の光に当たれば血鬼術の効果が消えてしまうかもしれない。見えなくなるのは怖い。見えても怖いが見えないのを怯えるのも嫌だ。
そうしてどれくらい居たのだろう。気がつけば禰豆子は居らず、箱に戻って眠っているようだった。俺は禰豆子がいつ戻ったのかも分からなかったのに、そうとう精神的に参っているのを感じた。だけどどうにもできない。自分ではどうにもできない。
「・・・・・・善逸・・・・・・善逸っ・・・・・・!!」
俺は情けなく、布団に蹲りながら善逸の名前を呼んだ。善逸に会いたい。抱きしめたい。口付けたい。混じり合いたい。
そう思ってるのに俺はこの10日間、背負ってに己から一切触れられていなかった。それどころか善逸を見るたび、善逸から触れられるたびに罪悪感が湧き上げてきて苦しい。善逸を裏切っている自分を許せないんだ。そしたそんな俺を見て、困ったように笑う善逸に申し訳が立たない。だけど善逸が俺の元にやってきてくれるのに安堵している。最低な男だ俺は。
「善逸・・・・・・」
「なーに?」
想定してない返事があって、俺は驚いて起き上がると振り返った。いつの間に部屋に来ていたのか、締め切っていた障子を開けて善逸が縁側に立っていた。善逸は不機嫌そうな半目で俺を見ている。
「か、帰って来てたのか・・・・・・。け、怪我はないか?」
俺は情けないところをまた見られてしまったと落ち込みながら、善逸から目を逸らした。善逸を見ると、申し訳ない気持ちが強くなってしまう。
善逸はしばらく黙っていたが、大きなため息をつくと大股に歩いて俺の前にしゃがみ込んだ。俺は明後日の方向を見ながらも、善逸が穴が開く程に俺を見ていることを感じていた。なぜ、こんなに見るのか。善逸はもしや怒っているのだろうか。いや、最近の態度を考えれば怒るのも間違いないが。
「炭治郎、これから日光浴いくぞ」
「えっ」
善逸はそう言うと俺をがしりと俵持ちしてくる。肋が!!肋が痛い!肩に当たってる当たってる!!
「痛い!痛い痛い善逸!!肋が痛い!!」
「うるせええええええ!!炭治郎がいつまでもグジグジと蛞蝓みたいに部屋に篭ってるからだろ!!しのぶさんにも怪我が悪化しても日光浴させていいってお墨付きもらってんだ!!俺は!容赦しねえええからなああああ!!」
「痛い痛い!!外出たくない!!行きたくない!!やめてくれ善逸!!」
「おわっ!暴れるなって・・・・・・うわわわわ!!」
俺が降りようもガムシャラに暴れると善逸がバランスを崩してふたりして布団に倒れた。倒れた瞬間にめちゃくちゃ肋が痛んで声ができないどころか息もできない。
「炭治郎!!大丈夫か!?」
「っーー・・・・・・だ、大丈夫だ・・・・・・」
肋を抑える俺を善逸が背中を撫でてくれた。善逸からはぐっと心配の匂いと罪悪感の匂いが漂う。・・・・・・俺は本当になにをしているんだろうか。
「・・・・・・無理やり連れてこうとして悪かったよ。でもさぁ、炭治郎。お前、この前から様子がおかしいよ。しのぶさんから聞いたけど、倒した鬼の血鬼術くらったんだって?それで炭治郎の気が落ち込んでるんだって言われたぞ。だからさぁ、俺と一緒に日光浴しよう?日を浴びよう?そうしたらすぐに良くなるからさあ」
しのぶさんから聞いたというのに心臓が止まるかと思ったが、どうやら詳しいことまでには及んでいないらしい。善逸に糸が繋がっていないことを知られていないことに安心した。けど、知られていなくても取り繕うことができない俺はなにも事態の改善はできない。
「浴びたくない・・・・・・」
「お前ねえ。そんな怯えた音や罪悪感いっぱいな音をずーっとさせてて何言ってんの?お前はね、血鬼術でおかしくなってんの。血鬼術の効果がなくなればね、お前は元気になるのよ。だからほら、俺と一緒に行こう?怖いならずっと手を握ってやるからさぁ」
善逸は優しい匂いをさせながらそう言ってくれる。この10日間、俺は善逸の手を跳ね除けてからろくな態度を取ってないと言うのに、善逸はずっと優しい。運命の相手でもない俺にずっと優しくしてくれている。俺は善逸に何も保証をしてやれないのに。
「・・・・・・ならない」
「なに?」
「血鬼術がなくなっても、俺はもう元には戻れない。・・・・・・もう、ダメなんだ・・・・・・」
知らなかった頃には戻れない。善逸と俺が運命ではないことを知ってしまった。こんなことなら血鬼術をくらったからとすぐに蝶屋敷に戻ってくるんじゃなかった。ゆっくりと戻ってきて、そのうちに日を浴びて血鬼術をなくしてしまえばよかった。そうしたら俺は自分の糸が善逸に繋がってると馬鹿みたいに信じていられただろうに。
グズグズと言い募る俺に、善逸から少しずつ苛立ちと怒りの匂いが立ち込める。それに気がついて俺が何か言う前に、立ち上がった善逸の怒号が飛んだ。
「いい加減にしろ!!竈門炭治郎!!お前はそれでも長男か!!見損なったぞ!!なにがダメだ!!お前はダメになっても自分でダメなんて言わない男だろうが!!立て!そして日を浴びろ!!血鬼術をなくせ!!それでもダメかどうか!元に戻れないかはやってから考えろ!!」
善逸は俺の腕をぐいっと引く。けど俺はどうしても足が動かない。
善逸に見損なったと言われた。怒らせた、苛立たせた。
こんな本気の怒りの匂いを善逸から始めて感じた。
俺は堪らずに涙が溢れる。
涙を流す俺に善逸は苛立たしげに眉を顰めた。
もうダメだ、けど、諦められない。
「善逸、俺を嫌いになったか?」
「はあ?」
「俺がこんな情けない男で、長男として自覚も失って、みっともなく泣くのに嫌気がさしたか?もう、好きではいてくれないか?」
善逸は引っ張る力を緩めるとまた大きな溜息をついて、そしてへたり込む俺を優しい手つきで抱きしめてくれた。
「何を言ってんのよ。嫌いになってたらこんなに必死に連れ出そうなんてしないよ。好きだよ、好き好き。お前が塞ぎ込んでるのが許せないくらい、お前が好きだよ。・・・・・・お前が別に塞ぎ込むのはいいのよ?折れてる炭治郎もべつにいいのよ?でもさぁ、それが血鬼術のせいは許せないね。治せるなら治して、早く元気になってよ。じゃないとさぁ、俺が寂しいじゃない。この10日間さあ、俺はずーっとお前を我慢してるのよ。そろそろ元気になって、俺を可愛がってくれてもいいんじゃないの、どうなの炭治郎さん?」
そんな可愛がってくれなんて軽口を言いながらも、善逸からは不安な匂いがしている。それはそうだ。善逸はこの10日間、訳もわからずに俺から避けられ続けたのだ。善逸が不安にらない訳がない。俺は糸に怯えるがあまりに大事にしたいものも大事にできていないのだ。
・・・・・・このままはダメだ。キチンと善逸に訳を話して・・・・・・それで、善逸に嫌われても、捨てられても文句は言えない。俺が裏切っているせいなんだから。
「・・・・・・善逸。俺は血鬼術のせいで気がおかしくなってるわけじゃない。血鬼術がきっかけだったのかもしれないが・・・・・・俺は知りたくなかったことを知ってしまったんだ」
「知りたくなかったこと?」
善逸は少し体を離すと、俺を覗き込みながら不思議そうな顔で首を傾げた。
「ああ。頭を打ったせいなのか、はたまた血鬼術のせいなのかそれはまだ分からないが・・・・・・俺は『運命の赤い糸』が見えるようになったんだ」
「運命の赤い糸ぉ?それってあれか?巷で女の子たちの噂話でよく聞く、運命の恋人と繋がってるとかいうあれ?」
「そう・・・・・・だと思う。いろんな人を観察してみて、恋人や夫婦に繋がってることが多かった。だからそれで間違いないと思う」
しのぶさんの憎悪の糸に関しては話がそれるからとりあえず伏せておこう。今はそれは問題ではないし。
「ふうん?それで?それがどうしたっていうんだ?」
「どうしたって・・・・・・その・・・・・・」
「うん」
先を促す善逸に、俺は言わなければと思うが中々口に出せない。けど善逸は辛抱強く待ってくれていて、善逸にこれ以上隠し立てして不安な思いはさせられないと腹を括る。裏切り者と酷いと詰られても俺は善逸にできうる限り、誠実にいたい。今更ではあるけれども。
俺は深呼吸すると本当はずっと隠していたかったことを白状した。
「俺の糸が・・・・・・善逸に繋がっていないんだ・・・・・・」
****
「あ、そうなの?うん、それで?」
あっさりとした様子でそう言った善逸に俺は目を剥いた。え?どうしてそんなにあっさりしてるんだ?俺はこんなに動揺したのに?善逸からは動揺の匂いはしてこない。ただ、俺を心配する匂いだけだ。
「それで!?それでってどういうことだ!!俺と善逸は運命の人じゃないんだぞ!!俺は!!俺がそれをどれだけ悲しくて苦しかったと思うんだ!!」
「え!?お前が落ち込んでるのってそれが理由なの!?俺と運命の人じゃないのを気にしてんの!?」
「当たり前だろう!!!俺は!!糸はお前と繋がってると思ってたんだ!!だけどあの日、任務帰りのお前にあって糸が繋がってないのに気がついて・・・・・・。こんなのは裏切りだ!!俺は善逸が好きなのに!!俺の糸は誰とも知らない相手に繋がってるんだ!!こんな・・・・・・こんなことってないだろう!!」
「いや、あるだろ」
「なんでだ!!なんでそんなに冷静なんだ善逸!!俺とお前が運命の相手じゃないなくてもいいのか!?納得できるのか!?俺のこと好きじゃないのか!?」
「いや、炭治郎のこと好きだよ?でも俺とお前は運命の相手じゃねーだろ。逆立ちしてもう違うわ」
あっけらかんと言う善逸に毒気を抜かれる。善逸は俺に「いーから、座れ」と言われていつの間にか立ち上がっていたのに気がついた。頭に血が上ってたみたいだ。俺は大人しく善逸の前に正座する。
「なんで正座?まあいいや。うーん、そもそもだなぁ。俺と炭治郎は運命の相手では絶対ないぜ。そうじゃなきゃおかしい」
「・・・・・・なんでそんなことが言い切れるんだ」
運命の相手じゃないことを悔しがってくれないのに俺は不満を感じた。俺は10日間も塞ぎ込んでいたというのに。薄情じゃないか?
「だってそうだもん。お前と俺が出会ったのは鬼殺隊で同期だったからだ。そんで俺は借金の都合でなったけど、お前は家族を殺されて妹である禰豆子ちゃんを鬼にされたからだ。俺たちが運命だというなら、お前を鬼殺隊にした経緯は、家族の死は運命だったっていうのか?」
その言葉に俺は心臓を打たれたかと思った。モヤがかった頭の中が少しずつ晴れていく間感覚にも似ている。
「俺は違うと断言するね!幸せな家族が鬼に殺されるのを運命だなんて認めない!!・・・・・・だから、俺と炭治郎は偶然出会って、偶然にもお互いを好きになったんだ。俺たちは運命の相手なんかじゃない。炭治郎の家族が無事に生きていたのなら、俺たちは知り合うことすらきっとなかったよ。お前は家族を慈しんで、そうしてきっと・・・・・・そのお前に繋がっているっていう人と恋をして結婚して、子孫を繋いでいっていたんだろうな」
善逸はそういうと、だらりと布団にひっくり返った。善逸からは嘘の匂いも取り繕う匂いもしない。本当にそう思っているのだとわかる。
「お前、ずっと俺を裏切ってると思ってたのね。だから俺を見ると罪悪感の音をたててたのか」
「うん。・・・・・・善逸を好きなのに、別の誰かに繋がっているのが不実な気がして・・・・・・」
「いや、お前が罪悪感覚えるべきは糸が繋がってる相手に対してだろ。俺にじゃない」
善逸は起き上がると真面目な顔でそう言った。それはどういう意味だろうか。
「なんでだ?」
「なんでって当たり前だろ。お前は運命の相手がいるのに、運命の相手でもない俺を好きになって、好きに抱いて、そんで死ぬまで一緒に生きるんだろ。どうなの炭治郎。運命の相手に不実じゃない?運命なのに、運命に抗ってんじゃん。相手がかわいそーだね」
善逸は可哀想などと言いながら、相手を哀れんでいる匂いはない。それどころか少し嬉しそうな匂いをさせている。・・・・・・俺が、運命ではない善逸を選ぶことに喜びを感じてくれているのだろうか。
「・・・・・・俺が運命の相手のところに行ってしまうって思わないのか?」
「はあああ?そんなことするの?俺の尻の穴を弄りまくってお前に突っ込まれないとイケなくした炭治郎が?俺を捨てるっていうのか?」
「そんなことしないぞ!!」
「だよね、良かったわ。俺の尻を雌にした責任はちゃんと取れよ」
「勿論!絶対に責任は取る!責任がなくても離さないぞ!!」
「ふはっ!まあ、そもそも炭治郎の絶倫ぶりに付き合えるのは俺くらいだよね。炭治郎は体力があって寛容な俺に感謝しなよ?・・・・・・これが炭治郎の運命の人だったら、絶対に性の不一致で破局だね」
善逸はそう言うと俺の膝の上に乗っかってきた。善逸からは誘うような匂いがして、ゴクリと喉がなる。俺がすっと顔を近づけると善逸は嬉しそうな目を細めてくれた。
俺は遠慮なく善逸の唇に吸い付くと久しぶりのこの感覚に腹の底が熱くなる。ずっと近くにいても接触も接吻もご無沙汰だったから止まれそうにない。思うように善逸の口内を嬲り、舌を吸い上げ、鬼殺隊士としては細い腰を期待を込めて撫であげた。
「あっ!こら!まだダーメ!」
「えっ?ダメなのか?」
パシリと手を払われて、俺は唇を尖らせて抗議した。誘ってきたのは善逸なのに、お預けはないだろう。酷いだろう。・・・・・・10日間もご無沙汰なのは俺のせいだけど。ああ、ご無沙汰だったから今日は2回や3回では満足できそうにない。それこそ善逸が言ったように、普通の人なら根をあげて逃げ出すくらいに沢山、めちゃくちゃに善逸を抱きたい。
「先に日光浴ね。血鬼術をなんとかしてから!ほら行こう!」
善逸が差し出す手を俺は今度こそ取った。善逸の言うように俺たちは運命ではないんだ。それでも俺たちはお互いが好きだし、きっとお互い死ぬまでお互いが好きだ。
「ふへへ」
「ん?どうした?」
繋いだ手を善逸は嬉しそうに揺らした。善逸からはこの10日間嗅いだ心配の匂いも切ない匂いももうしない。俺も自分の匂いは分からないけど、善逸に罪悪感の音は届いてないと思う。
「お前と俺に『運命の赤い糸』は繋がってないけどさあ。こうして、手は繋がってられるぜ?だからこれで満足してくれよな?」
善逸は笑ってそう言うと、俺を引っ張って縁側へと連れだした。縁側は日向になっていてじんわりと温かい。久しぶりのお日様の光に俺はほっと息をついた。暗いことばかり考えていたのはやはり血鬼術の影響だったのかもしれない。
いやはや、善逸のいうように今までの俺は本当に俺らしくなかった。長男として恥ずかしい。・・・・・・けど、長男としてダメでも、折れた俺でもきっと善逸はこうして手を繋いでひいてくれるだろうと今は思える。そしてもう俺は迷うことはしない。
「行こう炭治郎!」
「ああ、そうだな!」
俺たちは2人で笑って縁側から飛び出すと庭に駆けた。
繋がった手は離れない。
結局俺は、右手小指の繋がった先の相手なんてどうでもいい。ずっと善逸のことしか頭になかった。今更だけど、少しだけ申し訳なくなる。こんな俺が運命の人だなんて申し訳ないことをした。きっと一生、相手は誰だか分からないだろうけど。
出会っても気付くことのない運命の人!
すまない!許してほしい!
竈門炭治郎はあなたを選ぶことはついぞない!!
俺は善逸がいい!!
あなたではなく、俺は我妻善逸を選ぶ!!
善逸には運命の糸はない。
つまりは俺がこの手を離さなければ運命なんてないも同じだ!
さらば運命の人!
どうか俺と善逸のように糸がなくても手を繋ぎあえる人と出会ってくれ!!
日の光の中、俺はぷつりと何か切れる音を聞いた気がしたが俺の目にはもう『運命の糸』なるものが映ることはなかった。
****
「ところで善逸。しのぶさんと冨岡さんも糸が繋がってたんだが・・・・・・あれは運命でいいのか?お二人ともご不幸があって鬼殺隊に入ってるみたいなんだが・・・・・・」
「え!?それ、俺聞いて良かったやつなの!?」
「あ・・・・・・しまった!!内密にと言われてたんだ。悪いが善逸、内密にしてくれ!!」
「あ、うん・・・・・・それはいいけど・・・・・・」
「で、運命でいいのか?」
「ええ・・・・・・?男女だから俺たちよりは運命ありそうじゃない?鬼殺隊にならなくても出会ってたのかもよ」
「そうか・・・・・・それなら良かった」
「それか柱ともなるときっと自力で糸つけられるんだよ。ほら、しのぶさん執念凄そうな音よくさせてるし」
「なるほど・・・・・・。じゃあ俺たちもいつか糸が繋がるかなぁ」
「さあね。知らんよ。確認できないしな」
「それもそうだな。じゃあ、かわりにずっと手を繋いでいような」
「・・・・・・はいはい。それでいいですよ」



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