異世界に行って勇者になった高校生の善逸くんの炭善。途中で闇落ちルートとか光ルートとかいろんなルートの話あります。
約14000字/ファンタジー・異世界系
「めちゃくちゃとんでもない話なんだよなぁ」
「何がだ?」
「そりゃ勿論!!パーティに女の子がいないことに決まってんだろおおおお!?」
俺の叫びが洞窟内に反響する。その不協和音に俺は自分の声なのに思わず耳を塞いだ。目の前の花札みたいなピアスをつけた男、竈門炭治郎……炭治郎は残念そうなものを見る目でみながらも、またかという表情を隠しもしねぇ。他のパーティメンバーも総じて俺をちょっと残念そうな目で見てるのが悲しい。
「我妻少年の世界では勇者パーティに女性がいるのは普通らしいが……残念ながらこの世界では非常識だな!女性が旅をするには少しばかりこの世界は過酷すぎる!アマゾネスの国の女性ならばありえるが、我が国の女性の体質では中々に無理がある!」
キッパリとそう言った煉獄杏寿郎……煉獄さんに俺はがっくりと肩を落とす。それは確かにというか当たり前のことなんだけどさぁぁ。それと俺の世界には勇者パーティなんてありません。かってもフィクションです。漫画です、アニメです、ライトノベルです。ノンフィクションではありません。
「おい、くだらないこと言ってる場合じゃねえぞ。……魔王配下の奴の結界だ。善逸、テメーの仕事だぞー」
先頭を警戒しながら歩いていた宇髄天元……宇髄さんにそう言われて俺はうげっと顔を顰める。しかし俺以外のメンバーは俺が結界を斬ると疑ってない眼差しで、そんな目で見られたらやるしかない。怖いけどやるしかないのだ。
そもそも魔王印の結界は勇者である俺しか斬れないしね。本当に最悪だし、怖いよ?だって魔王がわざわざ自分の力を貸してまで結界張ってるってここで何してんのって感じですよ??わざわざ勇者が来いって言ってるようなものだよね?俺を誘き寄せて殺す罠ですか?それとも大規模になんか企ててんの?どっち?どっちでも怖いわ。
「ひいいいい!斬った瞬間にドパッーて魔物でてこない!?大丈夫!?俺死なない!?」
「大丈夫だぞ善逸。お前は俺が守るから」
「本当か炭治郎〜!!俺をちゃんと守ってよおおおお!?」
「つーか、テメェが死ぬと俺たち魔王城の結界も解けなくておしまいなんだよ!おらっ!とっとと結界斬れ!!」
「痛いっ!!」
宇髄さんに頭叩かれて前に出される。炭治郎が少しオロオロしながらも俺の後ろについてくれた。その反対側に黙って猪の被り物を被った半裸の男というヤバイ出で立ちの嘴平伊之助……伊之助も来てくれたが、こいつは結界が破れた瞬間に飛び込んで魔物をぶっ倒したい戦闘狂なので絆されねぇぞ!!
「紋逸!ささっとしろよ!」
「はいはいっ!分かりましたよ!皆んな、結界斬った後は宜しくね!俺は結界斬るしか能がないからね!!」
俺はそう言って勇者しか使えない聖剣とかいうのを構えた。つってもなんでか形状が日本刀なんですけどね。聖剣って雰囲気ではまるでない。
「シィィィィ……」
俺は爺ちゃん直伝の居合の構えを取ると、呼吸をした。毎回これしないと聖剣の本領発揮できんのよね。周りの皆んながそれをじっと見てる視線を感じて……ううっ!俺、見られんの苦手なんだよぉっ!緊張しちゃうからっ!!
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」
そう言って踏み込んで目の前の結界を斬る。ちなみに俺には結界はめちゃくちゃ普通に壁があるようにみえてるけど、皆んなは結界は魔力を使っての鑑定なんちゃらーみたいな技で見えるようになるらしい。皆んなはそのまま結界が見えることに流石勇者だと言うけど、俺としては普通にもうただの壁なので皆んなが「ここに結界があるな……」って言ってくれないと「行き止まりじゃん」となってUターンとなるから全く便利じゃない。だって壁も周りの風景に合わせてるから、今俺の目の前にあるのはただの岩壁ですからね!?言ってくれなきゃ本当に俺はここをスルーして何もなかったで帰ってますからね!?
そう言いながらも壁は結界な訳でして。俺の一閃で見事に溶けるようにか消えていく。その瞬間に伊之助は飛び出していき、煉獄さんも宇髄さんも走っていき、そして炭治郎も走って……炭治郎!?ちょっと炭治郎さん!?
「こらこら!!炭治郎は俺を置いてくなよ!!守って!?約束はどこいったの!?」
「目の前の魔物を殲滅するのが善逸を守るのに一番手取り早いんだ!!」
「嘘でしょ!?脳筋の発想!!って来てる来てる!!数多すぎてこっち来てますからっ!!」
案の定、雪崩が起きたように魔物が押し寄せてくる。俺以外はバチくそ強いから良いだろうけど……俺は弱いんだよっ!!
「ひいいいいいいい!!……ふぅ」
あまりの恐怖に意識が遠のく。薄れる視界でこちらを振り向く炭治郎が見えた気がするけど……あいつ、全然焦った顔してねーのな。酷くない?
****
「あらかた終わったな」
「はい。想定より早く終わりましたね」
宇髄さんの言葉に俺は剣を拭って頷いた。今日の任務は辺境にある鉱山地域に沸いた魔蟻の殲滅任務だった。蟻は増殖が早いゆえに一度数が増えると手がつけられない魔物だ。個々は強くなくとも数で押されると厄介だった。しかも魔王が増殖に手を貸しているらしく、初期の段階で討伐に赴いた兵団が結界に阻まれて侵入できないという事態が発生し、真反対にある浸水の古都に向かっている最中だった俺たち……というよりも異世界から来た勇者である善逸が呼び出されたというわけだ。
何しろ魔王が張る結界は勇者である善逸が振るう聖剣でなければ斬ることができない。どうように魔王が住むとされる魔城の入り口も勇者であふ善逸が振るう聖剣なくば入るのは不可能。今、世界中は異世界から来た勇者に注目している。各国の首脳や要人はもちろん、それこそ市井の人々、そして……魔王でさえもそうだ。
「まあ、勇者様が頑張ってくれたからなあ。しっかしあいつも訳わからんな。歴代の勇者は皆んな変わりもんらしいけど、あいつはその中でも最たる奴なんじゃないか?」
宇髄さんはそう言って善逸を眺めてる。俺はそれに倣うよりも前にずっと善逸を見ていた。善逸は足元に大量にできた魔蟻の屍の中で静かに佇んでいる。目蓋は緩く下されて、俯くその姿は命あるものを屠ったことから胸を痛ませる慈愛ある横顔に見えるが……実際には眠ってるだけだ。
勇者である善逸はまさかの『眠ってると超強い』というよく分からないスキルを持った勇者だった。最初はスキル鑑定した珠世さんも不思議がっていたけど、そのスキルの名前通り、善逸は眠るともの凄く強い勇者であった。
起きている時は怖い怖いと泣き叫んで震えているが、戦闘になるといきなり意識が飛び、高速の剣技を見せる。その圧巻のスピードは目で追うのも不可能なレベルだ。けど本人は眠ってる時のことを完全に夢と思ってるらしく……。
「ふがっ!……ん?ひええええ!!死体だらけじゃん!!やだああああ!!え?え?どうなったの!?終わったの!?皆んなは無事なのおおおお!?」
「起きたな。竈門、お守り頼んだぞ」
「はい!任せてください!……善逸!皆んな無事だぞ!」
俺がそう言って駆け寄ると涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした善逸が振り返って手を伸ばしてくる。俺はそれに腕を広げてよしよしと抱きしめてやった。殆ど上背は変わらないが、善逸の方が俺より少し細身だ。俺は善を抱きしめて、その身体から香る鋼のような強い匂いと優しい匂いにすーっと深呼吸をする。
ああ……良い匂いだ。魔物の死骸の匂いは酷いから、善逸の匂いを嗅ぐと心が安らぐ。
「たんじろおおおお!!無事でよかったよおおおお!!とんでもない量だったじゃん!!万!万はいたんじゃないのかってくらいだったぞ!!びえええええん!!」
「大丈夫だ。虫の魔物は炎に弱いからな。煉獄さん一人でも事足りるくるいだったぞ」
「マジで!?凄くない!?もう俺やだよおおおお!魔物はやだよおおおお!魔王となんて戦いたくない!!魔王城の扉は開けるから、そしてら皆んな俺を守ってくれよおおおお!?」
ひんひん言いながら縋りついてくる善逸に俺はふふっと笑う。怖くても魔王城の扉は開ける気があるんだから善逸はやはり優しい。魔物を間近で見たこともないようなお偉いさんの中には善逸が泣き喚いて怖いというのに難色を示して、新しい勇者を再召喚すべきじゃないかなんて言ってる奴らもいるが……全くわかってない。
「うっうっ……炭治郎、怪我、怪我してんじゃないのか?なんかベチョってしたんだけど?」
「ああ、少し腕を切っただけだ。問題ないよ」
「何言ってんだよ!バイキン入ったら大変でしょーが!手当て、手当てをしますよ!!」
そう言いながら善逸は俺の手を取ると服を捲った。そしてペロリと舌を出すと俺の傷口を舐める。
「うっ……!」
「えっ?痛い?もうちょい待って」
そう言いながら俺の傷口を舐める善逸だが……ちなみにこれは治療である。勇者である善逸は特殊な体質で毒や細菌などマイナスステータスがつかない。そしてスキル『勇者の介抱』によって治れ〜と念じながら舐めたり摩ったりをすると怪我や傷が治癒するのだ。
善逸のイメージが大事な為、打身なら撫でさすり、骨折や病なら『痛いの痛いの飛んでけ〜』という呪文で、傷は舐めて治す!!とのことらしい。
「んっ……治ってきた」
「も、もういいぞ!大丈夫だ!」
ペロペロと舐めてくれる善逸に俺は待ったをかける。実際に傷は塞がってきているし、このままだと他のところまで回復してしまう!
「分かった。他に怪我した人いるー?」
「おう。俺も舐めやがれ」
「げえええ!!何顔に怪我してんだよ!!イケメンの顔舐めるとか苦行にも程があるわ!!」
「男の象徴を舐めるんじゃねーんだからいいだろ?」
「んなとこに怪我した場合は大人しく男をやめてもらう他ないわ!!……んーはい!ほらよ!舐めましたよ!!」
「すまない我妻少年!背中を強かに打たれたので摩ってくれ!」
「はーい!」
そう言って駆けてく善逸を見送っていると、ドシンと肩に腕が置かれた。ちらりと視線を向けるとニヤニヤした宇髄さんが俺を見ている。俺がそれにふいっと顔を逸らすとら宇髄さんが隠しもせずに笑った。
「男の嫉妬は醜いぞ竈門ー?」
「ち、違います!嫉妬なんてしてないですよ!……俺は善逸のことは勇者としか思ってません!」
自分で言ってみて、思ったよりも胸が苦しくなり顔を歪める。視線の先にいる善逸は俺の方なんて見ずに煉獄さんや伊之助に文字通り手当てを施していた。その姿を魔力を集めた目で見ると凄まじいオーラが善逸を包んでいて本人の自覚なくとも勇者なのだと俺に教えてくれる。
歴代の勇者がどうとか分からないし、もちろんどの勇者も尊敬しているけど……やはり俺の代の勇者が一番だなんて思ってしまう。
「まあーそりゃそうだ。勇者を好きになるとかとんでもない話だからな。勇者を好きになったらパーティから外されるどころか記憶消去した後に官吏として働きながら四六時中監視って話もあるし」
「らしいですね……」
俺はそう言って奥歯を噛み締める。この世界の暗黙の了解として、勇者に心を寄せるべからずというのがある。その理由を俺は知らないが……少なくとも勇者に心を寄せた者は勇者の側から外されて記憶消去という話も都市伝説ではない。世間一般ではただの与太話とされてるが、実際に過去に行われているらしい。なぜそんなことをするのかは分からないが……勇者は使命を果たせば還ると言われているからだろう。人の心が悪に傾けば、魔物に変貌する可能性がある。
だからこそ、強者で構成される勇者のパーティメンバーは特に勇者に心を傾けないようにと厳命されるし、だからこそ今のパーティに女性が入ることはないのだ。
「前回は勇者が女だったから、それこそ大変なことになったらしいけどな。しかしまあ、男の勇者だから男だけでパーティ組んだのに……いやはや、あの勇者も罪深いわ」
「だから宇髄さん!俺は……!」
「上手く隠せよ竈門。あの勇者は相当な甘ちゃんだ。慣れ親しんだ奴が突然に訳の分からない理由でいなくなったら動揺する。それにあいつのスキル『真意看破』は嘘も同様も見抜くからな。お前が外されたら上手く誤魔化しきる自信はねえ」
「……」
「それにお前も最後まであいつを見てたいだろ?なら徹底的に隠せ。墓まで持ってけ。最悪、善逸にバレたとしても官吏の連中にはバレんなよ」
宇髄さんはそう言って俺の頭をぽんっと叩いて三人の元に歩いていく。俺は宇髄さんの言葉になんの返事もできなかった。
この想いを善逸に伝えたい。けど、そうすれば側にいられなくなる。俺は善逸の側で善逸を護りたい。ならばすることはひとつだけだ。自分の気持ちを押し殺して……家族の元に帰りたいと願ってる善逸を助けるだけだ。
「……早く、魔王を倒さなくちゃな」
俺は細く息を吐きだすと自分の心で芽吹くものをなんとか摘み取ろうと心に決める。時間は掛かるかもしれないが、善逸にやましい気持ちを向けるのは良くない。そもそも男同士だしな。
「あ!たんじろー!戻るってー!早く来いよー!」
けど少し離れた場所で大きく手を振って俺の名前を呼ぶ姿に、俺の心臓は大きく跳ねる。敗戦の色が濃い戦いだなとそんじょそこらの魔物以上の強敵に俺は既に白旗を振りたい。
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設定とかなんちゃら
◯我妻善逸
高校二年生で最近人気の異世界召喚系アニメの主人公が召喚された時のカップラーメンを食べながらコサックダンスを踊るというシーンを罰ゲームとしてクラスメイトと一緒にやっていたらまさかのそのまま召喚された。
気がついたら石造りの城にいて、様々な人種が入り混じる集団に囲まれていて、あまりにびっくりしてカップラーメンをひっくり返したので第一声は「うわっちいいいいいい!!」であった。
召喚した人々に「あなたこそ勇者様です!」と言われるもそんなことより水をくれ!といった状況で、そんな中に火傷に気がついて慌てて水を持ってきててくれたのは善逸は覚えていないが炭治郎だけであった。
この世界には魔王がいて、そいつの元に辿り着くには勇者だけが扱える聖剣の力が必要とのことで聖剣とお守りのパーティメンバーを渡されていってらっしゃーいされた。本人は全く自覚ないが勇者なので基本的にチートです。
炭治郎の気持ちは耳があるため実は気がついてるが、本人が隠してるみたいだし、気の迷いだろう、吊り橋効果だろと放っておいてる。突くと薮蛇になったら困るし。けど優しい目がほんの少し苦しそうな音を立ててる時は善逸も少しだけ苦しい。
ちなみに魔王を倒すと勇者は元の世界に戻ると言われたので、なんとしても魔王を倒したい。しかし実際には魔王を倒すと勇者は道連れで死にます。
◯竈門炭治郎
魔王の振りまいた呪いで苦しむ妹を助けるために、勇者のパーティに護衛として入った少年。15歳。先祖代々が引き継いでる剣技で戦うし、なんなら先祖も勇者のパーティにいたことが何回もある。
この世界の魔王はずーっとおんなじ奴じゃなく、気がついたら新しい奴が魔王として活動してるって感じなのでこまめに勇者が召喚されて魔王討伐にいく。
最初から善逸が強いことも優しいことも匂いで分かっていた。けど魔王の呪いが掛かっているので周りに遠巻きにされる妹にニコニコと近づいて「可愛いねぇ♡ 」と言った善逸に心打たれ、そして日々行動を共にしてるうちにすっかり好きになる。けど勇者は恋愛禁止なので好きになるのも御法度。炭治郎は我慢するつもりでいるが、パーティメンバーは大体気がついてて放って置いてる。皆んな、どうせ勇者は元の世界に帰ってちゃうからということだが、勇者は魔王を倒すと死にます。
その為、パーティメンバーに勇者を好きな奴がいるとめっちゃ闇落ちして魔王にクラスチェンジするのでこの世界は魔王が生まれ続ける。たまに闇落ちしない場合もあるけど、結局、時間をあけてパーティメンバーの誰かが闇落ちするから勇者と魔王の無限サイクルは終わらない。
この仕組みに気が付かないと(一部の国の上層部は知ってる)炭治郎は次の魔王になります。やったね!!
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※炭治郎が魔王になってしまった闇落ちルート
「帰りたくないな」
そう言った善逸は自分達が勝つことを疑っていない様子だった。善逸が帰るということは勝利の凱旋をするってことじゃない。自分の世界に帰るということだ。そこは空間的に本来なら断絶された場所で、こちらから召喚することはできても行くことはできない。魔王を倒すという目的を達する以外では……。
「善逸の家族が待ってるぞ。友達やそれこそ好きな人だって。ここに来たばかりの頃に言ってたじゃないか。好きだった子がいたのにって」
俺の言葉に善逸はくしゃり顔を歪める。酷いことを言っているのは俺もわかってる。しかし善逸はこの世界を救う勇者で、俺はただのそのお供だ。俺がいくら善逸を好きで、そして善逸も俺を想ってくれていてもどうにもならない。世界のために魔王を倒さなくちゃならない。そして、善逸は元の世界に帰るんだ。
「……今は違う人が好きだよ。でも炭治郎のいう通りだな。爺ちゃんや兄貴……は待ってないかもしんないけど、帰らないとな。そもそも魔王を倒さなきゃダメなんだから俺が帰りたくないとか言ったってダメなんだよな。……俺は魔王を倒すためだけにこの世界にいるんだから。魔王を倒さない俺にこの世界での価値なんてないし」
今にも泣きそうな顔で言う善逸に俺は違うと叫びたい。善逸はそこにいるだけで俺を幸せにしてくれる、剣なんて持たなくても、戦えなくても、居てくれればそれだけで価値があると伝えたいのに……できない。善逸にそれを伝えれば俺の気持ちが明らかになってしまう。
これから元の世界に帰り、16年間を営んできた日常に善逸は戻るんだ。そこに俺の気持ちを残していけば善逸が俺のいない世界でひとりで傷を抱えるのかと思うと到底できない。
「……なんで炭治郎が泣くんだよ」
「……泣いてない」
「馬鹿だなぁ」
そう言って善逸は俺を抱きしめた。背中に回る腕に、俺は抱き返すこともできない。それでも善逸は嬉しそうに「炭治郎はあったかいなぁ」と笑った。
****
「…………夢か」
ふっと目が覚めて頭を振った。目の前には荒れた光景が広がっていて、俺たちが魔王と戦った最終決戦の時のことが今でも鮮明に思い起こせる。一進一退のまさに死闘で……誰が死んでもおかしくない中で魔王を倒した。魔王を動けなくさせたのは俺で、留めを刺したのは聖剣を持つ善逸だった。魔王を無効化できるのは勇者だけと言われていて、それに倣い善逸は魔王に聖剣を突き刺した。
「……まだ、遠いな」
俺はポツリとそう呟き、目の前の荒れた城を見やる。その光景は俺にとっては毒そのもので、今にも破壊し尽くしたい。しかしここは大事な釣り場だ。勇者をおびき寄せる釣り場。ここに居れば必ず新しい勇者がやってくる。…………魔王である俺を倒しに。
魔王に止めを刺した時、魔王は「この時を!ずっと待っていた!!」と歓喜の声を上げた。そして善逸の中からエネルギーを抜き取り、自分もろとも闇の中へと消えていった。あれが何だかは最初は分からなかった。しかし善逸が生命エネルギーを奪われて死に、俺がその現実に耐えられずに魂が反転した時、全てを理解した。
この世界の魔王と勇者の関係、そしてそれを覆い隠す世界の指導者達。そしてーー善逸は魂だけになり眠るように存在しているという事実。
この世界の魔王は勇者を失った悲しみで魂の属性が反転した人間がなるものだ。そして魔王は勇者を自分の手の中に取り戻すために、新しい勇者を誘き寄せて自身を殺させることで呪いを発動させる。自分のこの世に存在するという概念と引き換えに新しい勇者の生命エネルギーを引き摺り出し、それを持って自分の勇者の魂の眠りを覚まさせる。そしてそれを抱えたまま二人きりの闇の次元へと消えていくのだ。
そこは誰も自分たち二人を邪魔をしない楽園だ。世界に決して認められなかったお互いの気持ちを己の気持ちを開けすけに出来る唯一の場所だ。そして今の俺には……本当に焦がれる場所だ。
「……善逸、好きだ。愛してる……。この気持ちを、早く伝えたい」
俺は自分の手の中にある善逸の魂に口付ける。といっても俺の魔力で覆い隠しているから触れられないんだが。これに直接触れるとあっという間に霧散してしまう。それくらい繊細な存在なんだ。だからこれを同じ勇者という存在がもつ生命エネルギーで包んであげなければ抱きしめることもできない。
次の勇者よ。早く来てくれ。君に取ってはとても迷惑だろうが、お願いだから俺たちを救ってくれ。せめてもとして、君をひとりにしないように、俺と同じように必ず君を助けようとするものが現れるように多少の回り道を用意するから。だから愛を育み、ここまで来てくれ。
そしてその剣でーー善逸が前の魔王にしてやったように俺の息の音を止めてくれ。
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※炭治郎が闇落ちするのを防ぐ光ルート
「竈門炭治郎は別任務に就くことになり、勇者守護の任から外れることになった」
「はあ?どういうことです??」
俺を召喚したヤマト国のお偉いさんがふんぞりかえってそう言った。こちとら遠方の任務に着いてたのに突然に呼び戻されて、「勇者様はここでお待ち下さい」と軟禁されること三日間。ようやく解放されたと思って広場に行ってみれば伊之助と煉獄さんと宇髄さん、そして……ちょっと初めて見る伊黒さんって人がいて炭治郎がいなかった。そしたおやおや?っと思っていたところで冒頭のお偉いさんの発言だ。
「なんで?突然すぎない?」
「突然のことだったのです。竈門炭治郎は優秀な人材です。彼にしかできない任務があるのです」
「いや炭治郎が優秀なのはわかってますよ?それにしたって挨拶くらいあるでしょ?」
だって……俺と炭治郎は恋仲なんだよ?って言葉は辛うじて飲み込んだ。お偉いのおっさんも勇者とそのパーティメンバーのくんずほぐれつの下の話など聞きたくもないだろうし、俺も聞かせたくない。この世界も男同士ってないわけじゃないけどマイノリティみたいだし。
「その時間すら惜しい、急ぎの任だったのです。ご理解下さい勇者様。かわりといって何ですが、伊黒小芭内も優秀な剣士です。実力は煉獄杏寿郎がお墨付きを与えております。なんなりとお使いください」
「はあ、へえ……」
というかまた剣士なのかよ。パーティメンバーほぼ剣士ってどういうことなんだろうね?辛うじて忍者の適性を宇髄さんが持ってるってだけで宇髄さんも剣士だからね?いやいや、そんなことより……。
「ところで炭治郎に会わせて欲しいんだけど?どこにいるの?」
「残念ながら彼はもう王都を発っておりまして……」
「ダウト」
「はっ……」
俺の声におっさんは飛び上がった。周りの仲間からも魔力が立ち登り、薄い防護壁を自身に纏うのが分かった。どうやら俺から威圧が高い魔力が漏れ出ちゃってるみたいだけど……俺はおっさんを威圧したいなって思ってるからしょうがない。魔力の制御なんて繊細なこと俺にはできない。
「おっさん、俺に嘘が通じると思ってんの?」
「それは……」
「炭治郎に急な任務が入った。王都にもういない。どっちも嘘だ。俺には分かるぞ」
おっさんからはめちゃくちゃ嘘の音が聞こえてるし、今はひたすら焦りの音ばかりだ。なんでそんな嘘をつく必要がある?炭治郎に何があったんだ?
「答えろよ」
「は、はひ……」
おっさんはガクガクと泡を吹くと失禁してその場に崩れ落ちた。うわっ、おっさんのお漏らしシーンとか最悪なんだけど。しかも気絶しちまってるし。蹴っ飛ばしたら起きねーかな?
「善逸、魔力纏った脚で蹴るのは流石にやめとけー。おっさんが死ぬぞ」
「ふーむ。やはり勇者の威圧はとんでもないな!俺でも中々に肝が冷える!」
「そうか?まあ、紋逸にしては中々だったけどな!」
仲間たちがほのぼのとしている中、俺は気絶したおっさんからは離れる。漏らした汚ねぇもんがこっちに流れてきてるからな。そんなおっさんを慌てて他の官吏たちが引きずっていくが、ここの掃除するメイドさんが可哀想だな。
「で?皆んなは三日間何してたんだ?」
「俺は東の森に行かされてたぞ。なんか大事な薬草もってこいとか簡単なお使いだったが揃える数がえぐかった」
「俺様は南の森だ!強い魔物が発生したって言われけど全然見つからなくてずーっと森の中探し回ってた!結局は勘違いだったとか言われて腹立ったぜ!!」
「俺は西の森だな!軍の護衛というよく分からない任を宛てがわれたが……よもや三人とも王都から遠ざけられていたとはな!竈門少年が心配だ!伊黒何か知らないか!?」
俺たちの視線に伊黒さんはふぅーと息を吐いた。そして「ついて来い」というと部屋を出て行く。俺たちはその後をついて行くと、なんか物々しい警備がされている一室の前にきた。しかし衛兵たちが「ここは通してはならないとおります!」と言って槍を交差させてくる。
「うるさい。世界の命運の為だ」
伊黒さんはそう言うと見事に衛兵達をのした扉を開けた。衛兵達の通せんぼに0コンマで反応して殴ってたぞ。この人、冷静そうな見た目なのにクソ怖え。俺はそう思いながらも入った部屋のベッドに炭治郎が寝かされているのを見て、俺はびっくりして声を上げる。
「炭治郎!!」
まさか病気かと思って駆け寄るが、俺のチート勇者としてのスキルのひとつとしてステータス看破を見ると……おお??
「た、炭治郎が記憶喪失になってる!!」
***
それから伊黒さんに追い立てられて、俺たちは気を失ってる炭治郎を抱えて王都から逃げ出した。何がなんだか分からないけど……とりあえず俺たちはお尋ね者になったらしい。
何か追手が来てたし(全部仲間が追い払ってくれたけど)、伊黒さんに連れられて入った国はキサツという名の小国だった。煉獄さんと伊黒さんはここの出身らしい。そこで匿われながら、俺はことの次第を知ることになる。
「ええっ!?勇者って恋愛禁止だったの!?それで炭治郎は薬で記憶喪失にされた!?マジで!?意味不明なんですけど!?」
勇者が恋愛禁止ってなんでじゃい!!どこのアイドルだよ!しかしこの世界では割とメジャーな知識らしく、みんなもお供になる際に『勇者を好きになりません』と誓約書を書いてるらしい。なんつー無茶苦茶な。
「えっ!?えっ!?じゃあ、炭治郎は俺と恋仲なのがバレたから拉致られて記憶喪失にされたってこと?」
「竈門は妹が国に保護されているからな。恐らく妹を盾にされたのだろう」
伊黒さんの言葉に俺はさーっと顔を青くする。妹って禰豆子ちゃんだろ?炭治郎のアキレス腱じゃん!!それを盾に取られたら……炭治郎は従うしかないわ。
「えっぐい……!!てゆーかいいじゃん!恋愛くらい!なんでそんな訳わかんないルールがあるの!?」
「それは私から説明しよう」
そう言って俺たちが匿われている部屋に入ってきたのはめちゃくちゃ声が良い男の人だった。煉獄さんと伊黒さんは勿論、宇髄さんも頭を下げてるからこの国偉い人なのだと俺にもすぐ分かった。
その人は産屋敷耀哉といってキサツ國の領主らしい。中々の政治手腕で領土が小さいながらも大国と対等に渡り合う凄い人なんだって後で知った。その産屋敷耀哉さん……お館様と呼ばれているらしいその人が言うにはこの世界の魔王誕生には勇者と恋愛が大きく関わってるとのことだった。
「えっと……つまり魔王は勇者と恋人、もしくは好きであった人間が、勇者が死んだことによって絶望して魂が反転して?そんで新しい魔王になるってこと……ですか?」
「そうだよ。そして新しい魔王は自分が愛した勇者の魂とひとつになるために、新たな勇者が己を殺しにくるのを待っている。己に聖剣を突き刺されたその時のみに発動する術をもってして、勇者の生命エネルギーを得るためにだ。そして生命エネルギーを奪われた勇者は魂だけで眠りにつき……肉体的には死に至る」
「そしてそれに絶望する人間がまた魔王に……?」
「うん、そうだね」
悲しそうに言うお館様に俺はどんな顔をしていいのか分からない。いやだって、それってつまり俺は魔王を倒したら死ぬんだよね?そんで炭治郎は次の魔王になるかもしれないから俺のことを忘れさせれるために記憶をなくす薬を使われたってことだよね?
「嘘……。え?じゃ、じゃあ勇者が恋愛禁止って……」
「……次の魔王を生まない為だ。しかし長い歴史で魔王が生まれなかったことはない。誰かが必ず、勇者が恋しくて魂が反転する」
「で、でも!炭治郎は俺のこと忘れたんだよな?それなら魔王には……待って!?家族のことも忘れてたりしない!?禰豆子ちゃんのこと忘れてるとか可哀想すぎる!!」
「いや、通常に日常を過ごせるように忘れさせられるのは勇者に関することだけだよ」
「よ、良かった……」
禰豆子ちゃんや家族のことは覚えてるんだ。俺のことは……忘れられたのは悲しいけど、炭治郎が魔王になんてならないなら何でもいい。てゆーか魔王が俺に殺されるのを望んでるっていうなら……うん。最悪、魔王城までみんなで行って、そんで魔王に会いに俺だけ行けばいいかも。そしたら誰も魔王にならなくない?俺のこと魔王になるくらい好きっていう奴なんて炭治郎しかいないだろうし……。
「けどこの忘れさせるやり方は実は効果がないんです。歴史的に見ても薬で忘れさせられてても、必ず思い出して魂が反転するので」
「なんでだよ!!じゃあ炭治郎が魔王になっちゃうじゃん!!」
「それどころか魔王になる前に抹殺される可能性があるんだ。今回はまずは記憶を失う薬を使われたけど……議会では殺してしまうべきだという意見もでていたらしい。そうだろう小芭内」
「はい、その通りです」
「うっそ!?詰んでるじゃあああん!!炭治郎がなにしたってんだよおおお!!待って待って!?炭治郎の家族は!?禰豆子ちゃんは!?炭治郎連れて逃げてきたけどどうなってんの!?大丈夫!?」
俺は慌ててそう聞くと、お館様はにっこりと笑って「どちらも我が国で保護しているよ」と言ってくれた。なんでも煉獄さんから俺と炭治郎の関係が報告されてて、このままでは不味いと事前に手を回してくれていたらしい。伊黒さんも半分スパイみたいなもんで、さっきの国に入り込んでたと聞いてなんてありがたいと拝みたい気持ちだ。
「で、でもなんでそんなに良くしてくれるんですか?お館様は俺と炭治郎にあまり関係ない立ち位置なのに……」
俺の質問にお館様は表情を曇らせた。そして「実は……」と言ってとつとつとこの世界の魔王について教えてくれた。魔王と言っても『魔王の始祖』についてだ。
なんでもこの魔王と勇者のいたちごっこが始まったのは、始祖魔王を倒した時かららしい。始祖の魔王はそれこそ勇者を失ったから反転した者ではなく、己の病を憂いて憂いて憂いて他者を強烈に妬んだ結果の末に生まれたらしい。その名も鬼舞辻無惨。そしてそいつは産屋敷家の者だったらしい。
「私はこの世界に蔓延する魔王の呪いを解きたい。無為に死ぬ勇者も、その勇者を求めて魔王に転じる愛深き者を救いたい。この無限に続く負の連鎖を断ち切りたいんだ。それには善逸の……炭治郎を決して魔王にしたくないという強い想いが必要なんだ」
俺はその言葉にごくりと喉を鳴らす。確かにこの負の連鎖を断ち切れれば新たな魔王は生まれずに世界は真に平和になる。何しろ魔王が現れる度に無差別に呪いにかかる人間がいるんだ。その人達は今も苦しんでるし……場合よっては死に至る。呪いをかけた魔王という病原菌を倒さない限りなくならない病だ。けど、その呪いを振り撒くのは勇者をおびき寄せるため……。しかし勇者が訪れれば殺して貰って、勇者を道連れにするのが目的な魔王は必ず倒れる。呪いは解ける。一時的にでも。
だからこそ、世界はその束の間の平和の為に勇者を差し向ける。何しろ勇者が魔王を倒した場合、次の魔王が現れるまでに最低でも10年は猶予があるらしいからな。それを考えると生贄のように勇者を異世界から召喚して魔王を倒させる方が手っ取り早いんだろう。魔王は希望通りに勇者を道連れにできるんだから。もしそれが破られれば、魔王は世界に何をするか分からない。
「……で、できるのかな?方法はあるんですか?」
「ある。魔王を殺さずに君の生命エネルギーを分け与える秘技がある。しかしそれを習得するためには今まで以上の過酷な道のりを歩むことになるだろう」
「秘儀….」
「最悪、命を落とすかもしれない。だからこそこの世界の誰もがそれをさせてこなかったし、伝えてもこなかった」
俺は命を落とすかもという言葉に怖くなった。いやそもそも魔王を倒したら俺は死ぬんだけどね?でも魔王を倒して禰豆子ちゃんや他の人の呪いを解いてあげて死ぬのと、魔王を倒せずに死んで、魔王が怒り狂ってとんでもないことしでかすんじゃないかってのを比べると前者の方がいいんだよな。でも……。
「やり、ます。俺は炭治郎を……魔王にはしたくない。それだけの気持ちしかない。世界のみんなの事は……今は考えられない。こんな俺でも大丈夫ですか?」
むるで自分本位の勇者らしからぬ言葉にお館様は怒るどころか微笑んでくれる。そのことにホッとしながらもいいのかな、なんて思っているとお館様は徐に言った。
「むしろその言葉を待っていたよ。魔王さえも救うのに必要なのは使命感じゃない。愛なんだよ善逸」
「愛……」
「うん、魔王を救う為の秘儀には愛が必要なんだ」
「愛が?」
お館様の言葉に俺は小首を傾げる。愛が必要な秘儀?凄いな。凄い精神的な力だな。しかし俺の訝しんだ顔にお館様は一切触れず、大真面目な顔をしてーー言った。凄い技名を。
「そうだよ。なぜならその秘儀の名は『愛の呼吸 終ノ型 ラブラブ円舞一閃』だからね」


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