出来上がってる炭善で周りの嫉妬にややお疲れ気味の善逸の話です。最終回後に鬼がいる設定。ちょっと損な役回りのモブ子ちゃんや、モブ善未遂がでてくるので地雷には注意してください。
約20000字/全年齢/年齢操作・柱IF
地獄の中で愛し合おう!!
「炭治郎、俺と念友になってくれないか?」
「悪いが善逸、その頼みは断固としてきけない」
俺と炭治郎は夜半の布団の上で正座で向かい合いながら睨み合っていた。炭治郎と念友になりたい俺、俺と念友という関係にはなりたくない炭治郎。この議論も何回したことか。しかし妥協案もなく、どちらも引く気はないため平行線だ。
「この話はいい加減、やめにしないか?」
「ええ、やだよぉ。俺、炭治郎とは念友の関係になりたいんだ」
「だから!俺は嫌だと言っている!それより、もういいか?俺が長男でも辛抱堪らんのだが」
「あー・・・・・・んーまあ、ひと月ぶりだもんね。じゃあしよっか?」
俺がそう言った瞬間、伊之助みたいに炭治郎が突撃してくる。腰と頭を支えられて、後ろの布団に雪崩れ込みながらも炭治郎はがっつり唇に噛み付いてきた。布団に押し倒されたと思ったら性急に浴衣を開かれてうち太もも撫で回される。
「はあ・・・善逸、お願いだから恋仲をやめたいなんて言わないでくれ。俺はお前が好きで仕方がないんだ」
「念友になってもまぐわえんじゃん」
「俺は想いが通いあった仲がいい。体だけの関係なんて我慢できない」
炭治郎は熱が灯った目で俺を見つめてそう囁いた。この目と声に本当に俺は弱いんだよな?。?があからんで顔が引きつるのを感じながら、今日も結局俺は炭治郎との恋仲からの脱却は叶わなかった。
********
俺と炭治郎が恋仲になったのは鬼舞辻無惨を倒したすぐ後のことだ。鬼舞辻を倒したけれど、鬼は完全にいなくなることがなかった。愈史郎君のように鬼舞辻の呪いに関していない鬼が残ったように、呪いを外した鬼が数多くいたのか、はたまた鬼舞辻と同じように鬼を作り出せる奴がいるのか。
それは分からないが鬼殺隊は変わらずに存続することになった。ただ良かった点としては鬼は全体的に弱体化しているという点と産屋敷にかけられた呪いが鬼舞辻を倒したことで解けたため、年若いお館様は病に侵されることがないとういうことだ。そして何より禰豆子ちゃんが人間に戻ったことは最も喜ぶべき点だ。
しかしながら炭治郎は禰豆子ちゃんが人に戻っても鬼殺隊を辞めなかった。鬼による被害をなくしたいという立派な志で、行く宛ないから残留してる俺とは雲泥の差だ。
そして炭治郎は鬼舞辻討伐の功績により柱となった。始まりの呼吸であるヒノカミカグラの継承もあるし当然だろう。伊之助もカナヲちゃんも空いた柱の席を埋めるために柱へと推挙された。同期の中で柱になってないのは俺だけ。俺の階級は変化はなく丙のままだ。上弦を単独で倒してはいるけど、急ごしらえの奴だったし、そもそもあれは鬼となった兄弟子の不始末をつけただけで功績にはならない。というかその辺のことけじめとして全部お断りしたのだ。今後一切、昇格も昇給もいらないと。じゃないと兄弟子の首を落とした功績で昇格なんて罪悪感で鬼殺隊をやってられないと駄々をこねたのだ。そして何よりも鬼殺隊士が鬼になるとはこういうことなのだという前例として厳粛に処罰して欲しいと願ったんだ。・・・・・・俺の話はどうでもいい。
まあ、炭治郎たちもすぐに柱になったわけではなく、休養のあと鬼殺隊を立て直した後のことだった。だからその頃は炭治郎たちは階級は甲であり、俺は丙だった。だからその時は何にも考えずに炭治郎から打ち明けられた俺を好きという気持ちに頷いてしまったのだ。
だって俺も炭治郎が好きだったし。鬼はいなくなっていないとはいえ、ご褒美的に自分の気持ちに正直になってもいいかなって思っちゃったんだもん。だけど流石に男同士の恋愛は外聞が悪い。俺は恋仲になるのはいいけど、隠していこうと提案した。その提案に炭治郎は難色を示したけど、じゃないと恋仲になれないと言えば渋々、善処すると約束してくれた。
そこから俺は幸せだった。だって好きな人と恋仲になれたんだぜ?今まで付き合ってきた女の子と違って炭治郎は俺の前からいなくならないと嘘のない音で告げてくるし、手を繋いでくれてるどころか接吻だって、情交だってした。好きな人と繋がれることがこんなに幸せだとは思わなかった。
もう俺!幸せすぎて死にそう!!
・・・・・・と思っていた俺ですが今は違います。なんていうか、わりと地獄。いや、炭治郎といる時は幸せだよ?この世の春ってこういうのだなって毎回思うよ?けどその他はわりと地獄なの。
俺の世界が変わったのは炭治郎達が柱になってからだ。俺と恋仲になって数ヶ月かな?と怪我が治って機能回復訓練と鍛錬が終わってという頃合いで炭治郎達は柱になった。その時には炭治郎は17歳になっていた。
17歳といえば、法律で男が結婚可能になる年齢だ。その効果ゆえか、炭治郎に見合い話が舞い込むようになった。
藤の家紋の家の娘さんが中心で、あとは産屋敷と何かしらの縁があるとこのご令嬢。炭治郎は勧められるお見合いを断っていたけど、断ってもいいが、いくつかは会うだけ会ってほしいと上役に願われてしまえば断れない。
炭治郎は俺に「すまない。だが会うだけだ。俺が好きなのは善逸だから!」といってお見合いの前日と後日は俺をそれはもう激しく抱いてきた。別に俺は心配してはいなかった。炭治郎が言うなら信じられたからだ。けどお見合いをした子は辛いだろうなと心配になるだけだった。
こんないい男を知ってしまったら、未練が残って次の見合いがしにくいだろうに。
そんな俺の心配が的中してしまったのか、ある時かなり押しが強い娘さんに当たってしまったらしい。見合いを終えて断っても炭治郎の屋敷にやってきては弁当や差し入れを渡してきて、果てには炭治郎がいない時には継子達に断りを入れて通い妻のようにあれこれとしてくれたらしい。
その頃はちょうど禰豆子ちゃんが隠の縫製係として見習修行で家を開けていた時期で、炭治郎の継子になったばかりの子たちではどうにも引き留められなかったらしい。
そりゃそうだ。お館様が会うだけだお願いと頼んでくるようなお家柄のお嬢さんだ。隊士としては扱いづらい。それに俺との関係も伏せていたから、独り身で恋人なしの炭治郎がそのお嬢さんを遠ざける理由が分からなかったんだ。
押しが強いと言ったけど、悪い子じゃなかった。どうしても炭治郎を諦められなかったのだろう。それ分かるわー。いい男だもんね。
お嬢さんは頬を赤らめながら「初恋なんです。こんなにも人を好いたことも、これから好くこともないと思ったんです」と縁側でお茶をしながらこれまたとびきり綺麗な恋の音をさせて俺に話してくれた。
ううーん。いいよねぇ。こんな綺麗な音をさせてしまう初恋。素晴らしいね。俺も初恋の時は周りが見えなくて浮きたってたなーなんて炭治郎達に聞かれたら毎回そうたっただろと言われそうであるが考えない。考えない。
と言うわけで悪い子じゃなかった。一縷の望みをかけて、炭治郎に会いたい、自分を知って好きになってほしいという気持ちからの行動だったのだ。俺はすげえいい子だねって思ったわ。
けど炭治郎にはそうじゃなかった。いい子だったけど、なんていうか炭治郎の都合には悪い子だったんだ。
俺とお嬢さんが炭治郎の屋敷の縁側でお茶を飲んでると任務が終わって上機嫌で帰ってきた炭治郎が明らかに困った顔を見せた。ちなみに俺が屋敷にいたのは俺も長期任務終わったから、炭治郎の家にしばらく厄介になる予定だったからだ。チュン太郎も飛ばしていたから任務に行っていた炭治郎も知っていたと思う。
要するに自惚れみたいだが、久しぶりに恋人に会えると喜んで帰ってきたら押しかけ女房がいたという正しく修羅場だ。俺は怒んないけど。
炭治郎は「またあなたですか。もうお手伝いは結構ですとお伝えした筈です。俺にあなたは勿体ないです。どうか他のいい人と添い遂げてください」となるべく穏便に断りを入れていたけど、お嬢さんは「押しかけてしまったのは謝ります。で、ですが、わ、わたしには炭治郎さん以外、考えられません」と言ってさめざめと泣いた。
俺は女の子泣かすなよと炭治郎を冷めた目で見て、継ぐ子達もこんなにも一途なのにと炭治郎を残念な目でみて、炭治郎と一緒の任務についていたらしく屋敷を訪れていた3人の隊士のうち男の2人も炭治郎を困った目で見ていた。
要するに炭治郎に味方がほぼいない状態だった。それがいけなかった。炭治郎は周りの目に追い詰められたのか、発狂したように「ぬあああああっ!!」と叫びだすと縁側でお嬢さんの横に座っていた俺に飛びかかるとそのまま押し倒して接吻してきた。しかもがっつり深いやつ。おぼこいお嬢さんにはトラウマもんだろう。
炭治郎はしこたま俺を堪能してから起き上がると「こういうことなので、俺は結婚しません。するつもりがありません。恋人がいるんです。俺は!これから!早く善逸を抱きたいのでお帰りいただきたい!!」
もうこいつキレてんの?お嬢さんは顔を赤くしたり青くしたりして立ち上がると「いい人がいることを察することもできず、迷惑ばかりかけて申し訳ありませんでした。・・・・・・お幸せに」といって逃げるように駆けて行った。動揺しただろうに、だけどちゃんと言うべきことを言える彼女は本当にいい人と幸せになってほしい。
俺はそう思いながら、ふーっふーっと獣のように呼吸を荒げる炭治郎に引き摺られて閨に向かった。
庭にいる一般隊士たちはびっくりしてるし、継子もびっくりしてる。なんてことだと思いながらも、今の炭治郎に何か言うとみんなの前でひん剥かれかねないので俺は協力もしないが拒絶もせずに引きずられていた。俺は炭治郎に詳しいんだ。暴走した炭治郎は刺激しないほうが吉。
それからお館様にも俺たちの関係が知れてしまったのか、炭治郎のお見合いの話はとんと来なくなった。炭治郎は良かったと言っていたけれど俺はよくない。隠すって言う約束どーなったのさ。だけど起こってしまったから仕方ない。しょげかえりながら「すまない・・・」と炭治郎に言われたらそれ以上は強くいえない。惚れた弱みってやつだな。
こう見ると一件落着のようだが、大変なのはこっからだ。俺と炭治郎の仲が鬼殺隊士の間でも噂となり知れ渡ってしまった。そうなると人をあちこちでたらしこんでいる炭治郎のことだ。男も女も・・・というか主に女の子が俺に対して嫉妬や憎しみの音を向けるようになってきた。
これがキツイのよ。綺麗な音だったのが俺を目に入れた瞬間にザリザリ嫌な音になるの。これが四方八方から聞こえてきた時は正しく地獄だね。耳を引きちぎりたくなる。しないけど。
鬼舞辻討伐後は減った隊士の生存率を上げる為に合同で任務を行うのが基本になってるから、この音に俺は本当に悩まされている。だって鬼を倒したいのに集中を削ぐ音がするんだもん。さすがに鬼が目の前に来たらそれどころじゃないから音は止むけど。終わった途端にまたするのよ。
任務中だけならいざ知らず、人の口に戸がたてられないからか藤の家紋の屋敷でもたまに聞こえる。そういう家は年頃のお嬢さんが必ずいるから、きっとお見合いを申し込んで断られたのだろう。
というか何なの!断ったの炭治郎でしょ!俺じゃないでしょ!なんでみんな俺に嫌な音たてて炭治郎には一切ないのよ!納得いかないね!!
まあでも女性は浮気されたら浮気相手を憎むのが普通らしいからしょうがないのか?俺は炭治郎の恋人で炭治郎は浮気してないですけど、俺がいるから炭治郎が手に入らなかったと思うと憎くなるのかも。
・・・・・・俺、こういうのばっかり。兄弟子の件で懲りた筈なのに。でも炭治郎との関係は横槍でもなんでもなく、後から他の子たちが炭治郎を好きになったのにダメなの?それはあれですか?俺が炭治郎と並ぶには納得できる奴じゃないから?心当たりありすぎて困るわ。
「ああー・・・また合同任務かー。憂鬱だわー」
「・・・・・・すまん」
俺は素っ裸で炭治郎に抱きしめられながら、これから行かねばならない任務に思いを馳せた。どうかどうか、炭治郎を好きな子が一緒じゃありませんように。
炭治郎も俺がちゃーんと現場を話しているから、申し訳なさそうにしている。けど炭治郎が出来ることは何もない。いや、やったことあるんだわ。「俺が善逸を好きなんだ!だから善逸に当たるのをやめてほしい!」と言い回ったことがある。結果は逆効果だった。炭治郎の愛が深ければ深いほど嫉妬の音が増える。ダメだこりゃ。終わってる。それ以降は炭治郎には何も言わずに何もするなとキツく言った。炭治郎はしょげかえっていた。
「申し訳ないと思うなら、恋人関係を解消したい」
「それはダメだ。絶対に嫌だ」
こうして堂々巡りだ。俺はもう炭治郎と繋がれるならわざわざ恋人としなくてもいいんじゃないかと思ってる。恋人関係解消しました?としておけばよくない?念友でもう良くない?そしたら俺に構わず、炭治郎の空席狙ってみんなの意識が逸れない?ダメかな?ダメだよなあ?。
「もしそんなことになったら、俺は善逸が好きだっと叫んでお前の尻を追いかけ回すことになるぞ。それでもいいのか?」
「ダメに決まってんだろ。柱がそんなことしてたら隊士が泣くわ」
そして風柱のおっさんとかに怒られる。もちろん俺もね。
「仕方ない。なるようにしかならないか?」
「そうだな。善逸には苦労かける」
「本当だよ!!お前が男前なばっかりに何で俺が苦労しなくちゃならないんだよ!!ってなに照れてんだ褒めてないよおおおお!!」
********
はい、しくじりました。任務で盛大にしくじりました?。もう身体中痛いわ。ダメだね。死ぬね、死ぬ死ぬ。
いやいや行った合同任務だったけど何あれ?酷くない?新しく入った子とかなのになんで俺に嫉妬の音向けるの?どこで炭治郎と出会って心奪われたの?あいつまじて初恋泥棒の名を欲しいがままにしてやがんな!!キィィィィィ!!俺にもわけろ!!無理だけど!!
しかもまだ任務の経験も少ないのと俺はの反感で指示を聞くのが迷いがあったし。お願いだから任務中は集中してほしい!じゃないと今度は死ぬよ!今回は俺が傷を肩代わりできたけど、毎回間に合うとは限らないからね!!
でもその子は鬼からの攻撃を庇った俺に対して本当に申し訳ない音をさせて謝ってくれたからよかった。嫉妬の音も殆どなくなったし。これで余計なことしやがってとか思われてたらさすがに立ち直れないわ。
「全治2カ月ですね。熱が出てるのでしばらくは辛いと思いますが頑張りましょう」
「はぁ?い」
俺はアオイちゃんの言葉に溜息をつきながらも、蝶屋敷の音に安堵していた。俺が入っているのは個室だから、ここにいれば俺へと嫉妬の音は殆ど聞こえない。アオイちゃんも俺の悩みを知ってるから、この部屋に誰がいるかは内密にするって言ってくれてるし。
「傷のほかにも、お疲れでしょうからよく休んでくださいね」
アオイちゃんはそう言って出て行った。アオイちゃんは優しいなぁ。アオイちゃんも本当は炭治郎のこと好きだって音がカラカラなってるのに、それでも俺にも優しい。この違いは何なのか。人柄なのか、俺と知り合いだからなのか。人柄かなぁ。カナヲちゃんも俺に対して不満な音は立てないし、結局は人は内面なんだなぁ。2人ともめちゃくちゃ可愛いけど。
「・・・・・・炭治郎、心配してるかなぁ・・・・・・」
俺は薬と熱でうとうとしながらそう思った。こんな大怪我は久しぶりだ。アオイちゃんに代わりに手紙を書いてもらって、チュン太郎を炭治郎のもとへと行ってもらったから任務がなければすぐにここに来るだろう。俺、怒られるかなぁ。いや、後輩を守った俺は褒められはしても怒られないよね?だよな?あー不安だわ・・・・・・。
そのまま俺はゆっくりと瞼を閉じた。軽快に、しかしなるだけ静かに歩む蝶屋敷たちの足音、鳥の囀りや木々のざわめき。そして・・・ザリザリと胸を掻き毟ったような不快な音と、緊張の音。
「あっちぃいいいいいい!!」
俺は突然感じた熱さに跳ね起きた。鬼にやられた傷がめちゃくちゃ痛んだけどそれどころじゃない。熱さの後にガランと金属音がしてそちらを瞬間的に見やれば薬缶が転がっている。そして俺の顔と上半身は熱く煮え滾ってるようで、どうやら熱湯をかけられたのだと理解した。そしてバタバタと病室の外を駆けて行く足音に逃げられたと気がつく。
「善逸さん!静かにしてくださ・・・・・・キャアアアアアアっ!!なほ!きよ!すみ!急いでタライいっぱいに水を持ってきて!!」
アオイちゃんは俺を見て悲鳴をあげたが、すぐにやるべきことを思い出したのか部屋の外に向かってそう叫んだ。そして俺のもとに来るとハサミで急いで療養服を切り始める。
「ぬ、脱ごうか?」
「ダメです!無理に脱いだら皮膚がずる向けになるかもしれません!!じっとしてて!!」
「ひえっ・・・・・・!!」
俺はアオイちゃんとなほちゃん達にされるがままだった。まあ、怪我であんまり動けないし。できることないんだけど。
みんなが急いで措置をしてくれた結果、俺はそんなに酷い火傷にはならなかった。髪の生え際に多少の火傷が残りそうらしいけど、まあ前髪あるから見えないし。けど傷口にまで火傷をしてしまったので俺は入院伸びるらしい。辛い。
まあそれよりも今は病室の椅子に鎮座して、地獄の窯の蓋が開くような音を立てている男が目の前にいる方が辛い。
「善逸、いい加減にしてくれ」
重々しい声でそう言う男・・・もとい炭治郎に俺はほとほと困っていた。炭治郎は般若の顔をして、苛立っている音を盛大にたてている。
「そんなこと言われても・・・・・・」
「いいから、誰がお前にそんなことをしたのか白状するんだ!!」
「ひえっ!なんで俺が怒られるんだよおおおお!ちょっとは優しくしてくれよおおおお!!」
おろろんと情けなく泣き言を言えば、炭治郎は弓を引き絞るような張り詰めた音をさせて、大きく溜息をついた。それから炭治郎を満たすのは悔しさと罪悪感の音だ。
「すまん、善逸。お前は被害者なのに・・・。俺が不甲斐ないせいで・・・」
「不甲斐ないというか、お前がいい男すぎるのが問題だわ。そんで俺が釣り合わないのが一番の大問題だけどね」
俺がそう言うと炭治郎は苦しそうに辛そうにそして腹立たしそうな顔をした。音もそのままの通りだ。
「善逸は何も悪くない!・・・・・・俺たちはお互いを好きなだけなのに、何故周りが文句を言ってくるんだ」
「そりゃお前、炭治郎みたいな優良な男が無為に消費されてるのが損失だからだろ。明らかに気の迷いで迷わせてる俺が悪いって思われてんだよ。お前はみんなに好かれて愛されてるから心配されてるってことだよ」
「俺の家族でもないのに、勝手に関与して善逸を傷つけることが心配だっていうのか!?心配だと言えば何でも許されるわけじゃない!!俺は俺の気持ちのまま善逸を好きなんだ!なぜそれを第三者にいちゃもんつけられるんだ!!!!」
「わー!わー!静かに!病室だぞ!!」
炭治郎の全力の叫びに俺は慌てて口元に人差し指を立てる。炭治郎は苦しそうに溜息をついて俺の寝台に突っ伏した。炭治郎から辛い、苦しいという音が聞こえる。辛かったらこの関係を解消すればいいのにと思うけど、それも炭治郎はできないのだろう。解消したって炭治郎は絶対に俺を好きなままだ。
「せめて俺が女だったら、お前の子を孕めるから良かったんだけどなぁ」
それも出来ない。俺は炭治郎の子を孕めない。きっとそれが周りが俺を許せない理由のひとつだろう。女であったなら炭治郎に子を宿せたし、祝言もあげられた。だか残念ながら俺は男だ。炭治郎が自分の意思で俺を手放さない限りきっとずっとこの幸せだけど周りから見れば不毛な状態は続く。
「俺はお前を女だったらなんて考えたことはないぞ!!」
「まあ、俺もお前が女だったらと考えたことはないなぁ」
身体だけでなく顔までもが包帯ぐるぐる巻きで、俺はほんの少し鬱陶しいく感じた。だけどこの下は火傷があるから包帯はまだ取れない。炭治郎は包帯だらけの俺を見て悲しそうに顔を歪めている。音が、音が悲しいんだ。炭治郎はようやっと禰豆子ちゃんを人に戻し、鬼の首魁を倒したというのにままならない。
「・・・・・・なあ、善逸」
「なんだよ」
「・・・・・・2人で鬼殺隊を辞めないか?」
その言葉に俺は怪我が痛むのも無視して起き上がり、炭治郎を見た。炭治郎は「急に動くな。怪我に障る」と言うがこちらは見ずに俯いている。なんだって?鬼殺隊を辞める?2人で?
「お前、正気なのか?」
俺の言葉に炭治郎はしばらく沈黙し、そしてゆっくり顔を上げた。炭治郎は辛い、苦しいという目で俺を見ている。音が他者が俺を苛むのが許せないと叫んでいる。
「正気じゃない。俺はお前を害されて、正気を保てる男じゃない。長男だって関係ない。好いている、愛する人を悪意をもって傷つけられて何とも思わない人間じゃない!!俺は!お前を害する奴らを片っ端から粛清したい!!」
「まじで正気じゃないじゃん。とりあえず寝ろ。あとお前が辞めても俺は辞めないからな」
俺はそう言って炭治郎の提案を蹴飛ばした。鬼殺隊は鬼狩りの力は爺ちゃんとの縁だ。これを手放すつもりはない。まあ、鬼がいなくなったら仕方ないけど。
「俺が鬼殺隊をやめる時は鬼がいなくなった時だけだよ」
「じゃあ、さっさと全部倒そう」
炭治郎はそう言うと食事の支度をしてくると言って出て行った。なんで柱の炭治郎がとは思うがさっき大真面目で「今度は毒を盛られるかもしれない」とか真剣な顔で言っていたからだろう。ちなみに俺は夕方にはここを退院するらしい。怪我だらけなんですけど?でも炭治郎がまた犯人が来るかもしれないからと言ってここに善逸を置いておけないと主張した。
まあ、たしかに俺にだけ掛り切りになることはアオイちゃん達には難しい。仕方なく自宅療養となったわけだ。自宅と言っても炭治郎の屋敷に行くんだけどね。俺、家なしだし。あっても1人きりじゃ何もできない。
「・・・・・・馬鹿だなぁ、本当に」
炭治郎がめちゃくちゃ好きな俺も、俺をめちゃくちゃ好きな炭治郎も、そんな炭治郎をめちゃくちゃ好きなあの子たちも。
「しかし人の心は縛れないんだよなぁ。強要もできないし。俺がいくら炭治郎に別れたいって言っても本心じゃなきゃあいつは受け取らないし、それに例え別れてくれてもあいつはめちゃくちゃ俺のこと好きだろうし。本当にどうにもならんよ。恋の病に薬無しとはよく言ったもんだね。ねえ、そう思わない?」
そう、病室の入り口へと声を掛ければ怒った顔をした女の子が立っていた。見たことがある顔だ。そう、炭治郎にご執心だったお嬢さんの前で見事な接吻をかました俺たちのそばにいた子だ。
あの時、炭治郎と同じ任務に出ていた3人のうちの1人。唯一、炭治郎に泣き縋るお嬢さんを侮蔑する目で見ていた子だ。
「炭治郎には言ってないよ。君が俺に熱湯掛けたって。ちなみに違うって言っても俺にはわかる。俺の耳がいいのは知ってるだろ?君の音、本当に酷いよ。魑魅魍魎か鬼女のそれだね。嫉妬に塗れてこの世で最も醜悪な音だ。そんな音をたてる子に好かれるなんて炭治郎は可哀想な奴だね」
俺の言葉に女の子はキリキリと目を吊り上げた。音じゃなく顔つきまで鬼女だ。嫉妬っていうのは可愛らしい女の子をこんなに変えてしまうものなのか。実に恐ろしい。
「顔、酷いよ。鏡見てみなよ。絶対に火傷だらけの俺の方がいい顔してるね」
「あんたが!!あんたがいるから竈門さんはおかしくなるのよ!あんたみたいな男を好きだなんて真っ当な道じゃない!竈門さんを真っ当な道に戻してあげなきゃ!そうしなきゃ、そうしなきゃ!だって男同士なんて子供だってできないのよ!?」
「なら君が孕んで産んでやれよ」
俺の言葉に怒りの形相をしていた女の子が虚を突かれたような顔をする。それが滑稽で俺はくすりと笑みが漏れた。
「まあ、一筋縄じゃいかないけど薬でも盛って無理やり果たしなよ。上手くいけば孕めるぜ?もし孕めたら君の勝ちだ。炭治郎は間違いなく責任を取るよ。君と祝言をあげて、子を育んでくれる」
女の子は何を言ってるんだこいつはという顔で俺をみている。まあ、確かに恋人を襲って孕めばいいなんて普通は言わないからな。けど俺はそれでもいいさ。誰が何しようと心は自由だ。この子がそれをしたら許せないだろうけど、責任を取る炭治郎を見ていられなくなるだろうけど。
「君と結婚したら、子ができたら流石に俺は去るよ。そんな炭治郎を見てたくないからね。だから俺に勝ちたいなら俺を害するより、炭治郎を調略したほうがいい」
女の子は満更でもないのか、高揚する音が聞こえる。想像しているんだろう。自分が炭治郎の子を産む。家族になる。嫁になる。だけど、俺からすればお笑い種だ。
「けど残念だね。君が炭治郎の子を孕んでも、妻の座は手に入れられるだろうけと、心は手に入らないよ。心は俺のものだからね!炭治郎は一生涯俺のことだけが好きなんだよ!俺だけを愛してるんだ!!君が馬鹿にする男の俺が!!炭治郎の唯一で炭治郎の心に住むことができるんだよ!!それが分かったら俺に何かしようとか考えるんじゃねえ!!俺が傷つくとお前の愛しの炭治郎が傷つくんだよ!!」
俺の恫喝に女の子は病室に踏み込むと、入り口に置いてあった花瓶を手に取った。俺のことぶっ殺す気かな?けど俺が死んだらますます炭治郎は手に入らなくなるぞと心の中で女の子を哀れむ。
花瓶を手に取った女の子が俺に近づこうとさらに足を踏み出した瞬間、この世のものとは思えない恐ろしい音と形相をした炭治郎が女の子の腕をギリギリと捻り上げていた。
女の子は真っ青になってこの世の終わりだという顔をしている。というか炭治郎、戻ってくるの早いな。手ぶらじゃねーか。俺のご飯はどうしたのさ?
「不穏な匂いがするから慌てて戻ってきてみれば、これはなんだ?」
おっそろしく低い平坦な声でそう言われて、女の子はボロボロと泣き出した。そりゃそうだろう。炭治郎からめちゃくちゃ殺気が漏れている。あんなの向けられたら俺なら失神するね。
「・・・・・・花の水、古くなってたからその子に変えてもらおうと思って呼び止めたんだよ」
俺の言葉に炭治郎はなぜだという顔でこっちを見る。たぶん、こいつ会話内容を聞いてたな?だが悪いけど炭治郎の出る幕はない。これは俺が売られた喧嘩だ。伊之助風に言うなら雄をめぐる雌の攻防だ。俺も雄なんだけどね。
「じゃあ、花瓶頼んだよ」
俺がそう言うと炭治郎は渋々手を緩めた。だけど、足に力が入らないのかふらふらして去ろうとする女の子の背中に駄目押しで言う。
「善逸の優しさに感謝するといい。善逸が君に情けを掛けなければ、俺は君に頭突きをして頭蓋を砕いただろう。俺の恋人が優しくて助かったな」
女の子は何も言わずに病室から逃げていった。しーん静まり返る病室には炭治郎のやり切れなさが渦巻く音ばかりがしている。
「ああ・・・・・・女の子に酷いこと言ってしまった。俺ってばなんて最低野郎なんだ!!人生で初だぞ!?女の子を罵るなんて!!俺にこんなことさせる炭治郎はなんて奴なんだ!!」
寝台に沈みながら愚痴れば炭治郎は嬉しそうに笑っている。なんだこいつ!俺は心が痛いのに!!女の子にあんな酷いことを言ってしまったんだぞ!!
「何笑ってんだよ!!」
「すまない。だが、善逸が女の子を罵ってでも俺を譲れないと思ってくれたのが嬉しくて・・・・・・。ああ、俺は善逸に愛されているなぁ」
炭治郎がしみじみそう言うのに俺はほとほと呆れてしまう。女の子が大好きな俺が男の炭治郎に足開いてるんだぞ?愛がなければなんなんだってんだ!!
「今更気が付いたのかよ」
「いや、知ってるよ。けど再度実感したという話だ」
炭治郎は嬉しそうにしながら俺の唇に軽く唇を合わせてきた。少しだけカサついているが慣れたものだ。気持ちがいい。それに炭治郎の音がだんだんと幸せという音に変わっていく様が心地よい。そうそう。俺といる時はなんのことも考えずにそんな音をさせていてくれよ。
「炭治郎、俺はこの世が地獄だとしてもお前が好きだよ。だから俺のために鬼殺隊を辞めるとかは二度と言うなよな。・・・・・・お前が鬼なんて懲り懲りだっていうならいいけどさ。」
「善逸に負担ばかりを掛けるしかないのが悔しい・・・・・・」
「ははっ。こればかりは仕方ないな。人の心は自由だから。まあ、でもお前は俺の心配で身を引き裂かれんとするんなら、トントンだろ。2人で一緒に地獄で暮らそうぜ」
「善逸が俺の恋人でいてくれるならどこだって極楽だよ」
俺たちはふはっと笑いあう。さてさて、そろそろお腹が空いてきた。優しい恋人に昼食まだかとせっつくとしようか。
極楽への行進
皆んな死に体で鬼舞辻を倒して、これで全部終わりだと両手を上げて喜んだのに実際には鬼はまだこの世に蔓延っているので俺たちが思うよりも鬼の絡繰は複雑だ。まあ千年もこの国に蔓延っていたのだからそう簡単にはいかないのかもしれないが悔しい。そもそもこの状況が1人の元人間によって巻き起こされたと思うと人間の可能性とは恐ろしいと思う。
しかし感心することじゃない。今もこの国では家族を鬼にされ、その鬼になった家族に食われたり殺されたり、その鬼になった家族を戦って殺したりする悲劇があるということだ。
かくいう俺もそんな1人で、ただ俺は鬼になった家族が誰も食うこともなく、誰も殺すこともなく、俺も鬼になった家族を殺さなくて済んだことだけが不幸中の幸いだった。
そしてその苦しい道の最中でも俺が壊れて崩れてしまわなかったのは長男だったからではない。もちろん、長男だったからこそやり切れた自負はあるがそれだけじゃきっと無理だった。俺は何度も何度も助けられて救われて、苦しい道の中でも幸せだったから最後まで走れたんだ。幸せを救いをくれる人に出会ったからだったと自分でもわかっている。
出会ってからすぐに俺と禰豆子を大切にしてくれた人。打算なく、知り合って間もない俺をただ信じたいと思ったからなんていう理由で体ごと張って大怪我を負ってまで俺の命よりも大切だった妹を守ってくれた人。
我妻善逸。
その時から俺は善逸がきっと特別で。善逸はいつだって俺と禰豆子に優しさをくれて、しんどい時には自然と重荷を一緒に持ってくれて、そして日常では何くれなく幸せな気持ちを運んできてくれた。
善逸は禰豆子を時に俺以上に大切にしてくれて、俺が手が回らない時は息をするように禰豆子を守ってくれて、つまりそれは俺は善逸に命を預けていたのだ。善逸ならば大丈夫。禰豆子を、俺の命を大切に守ってくれると意識せずとも信じていた。
俺の命を優しく真綿のような柔らかさと暖かさで守ってくれた善逸だからこそ、いつか、いつか俺もそんな風に善逸を守ってやりたい。俺は不器用で要領が悪いから今は手一杯で無理だとしてもいつか、いつか俺の手が少しでも空いたら善逸の手を握りたい。ずっとそう思っていた。だから俺はこの気持ちに恋とか愛とか名をつけたんだ。
そして総力戦となった無限城の戦いで、鬼殺隊の悲願であった鬼舞辻無惨を倒した時、俺の当初の目的であった禰豆子が鬼から人に戻った時、俺はようやく片手が空いたのだと納得できた。
家族の仇を討った。
愛する妹が人間に戻った。
鬼はなぜか消えなかったけど、俺の最初の目的はようやく達せられたんだ。これからどうするかはまだ分からないし。鬼は消えていないから悲劇が起こるのはまだ止められていないから片手には日輪刀を持たなければならない。
でも繋いでいた妹との手は離れたと言っていい。妹を見守り、嫁に行くまで家長として兄として見守らねばならないのは確かだが手は離さなければならない。
もう禰豆子を戦いに連れて行くこともないのだ。禰豆子はもう誰に何を強要されることもなく自分で考えて自分で選択して、自分で幸せを手にしていくのだから。
だから片手があいた。ならばすることはひとつだ。鬼を全て根絶するのが新しい目標なら、もうひとつの夢は理想は、善逸と一緒に生きることだ。善逸を俺の手で幸せにしてやることだ。誰にも髪の毛一本だってくれてやりたくない。
無限城の戦いの後で蝶屋敷のベッドで目が覚めた俺は瞬時にそう思った。まあ、その時は鬼の残党がいるのは知らなかったけど禰豆子が人間に戻ったのは知っていた。分かっていた。禰豆子は鬼舞辻の前で鬼から人に戻り、鬼舞辻は太陽を克服することはできずに陽に焼かれて死んだのだから。
そして目を覚ました俺は隣に善逸が、反対隣に伊之助がベッドで眠っているのを見て歓喜した。仲間が生きている。死んだものもいるけれど、それは悲しいけど生きていてくれて嬉しい涙は止められない。
俺の意識が戻ったのに気がついたのか善逸が「たんじろぉ?起きたのか・・・・・・?伊之助もちゃんといるよぉ。痛いねぇ・・・・・・痛いよぉ?良かったよぉ?」と優しくて甘い匂いをさせてホロホロ泣くのを受けて己の中の何かがぶつりと千切れた音を聞いた。
多分あれは長男とか世間の目がとか男同士とか善逸が嫌がったら我慢しなきゃいけないとかそういう諸々の糸だったんだろう。
それから俺と善逸はゆっくりと傷を治しながら現状を把握していった。鬼がいる。ならば戦わねば。悲劇を少しでも減らして減らして、いつか生まれないようにしなければ。
そう自然と思った俺に善逸は「禰豆子ちゃんと帰ればいいのに」と心底そう思うという匂いをさせて言ったのに少しだけムッとしてしまったのは仕方がないだろう。俺が帰って寂しくないのかと思ってしまう。
しかし善逸は本当に優しい奴だから俺のことを禰豆子のことを心配しているんだろう。
俺が「善逸はどうするんだ?」と聞けば、善逸はすっと瞳から色を失ってそうして「俺は最期まで戦うよ」と疲れたように言うのに、香りたつ甘い桃のような匂いと鼻の奥をつく血のような匂いにざっと俺を恐怖が襲った。
いつだって幸せが壊れる時は血の匂いがする。
俺は善逸の手を取ると自然と言葉が出ていた。
「好きだ、善逸」
それからは一波乱あったけど俺は善逸と恋仲になった。その一波乱の中には俺が知りえなかった色々な事実があったりしたけど、俺と善逸は傷だらけの中さらに傷を負うような一悶着まで引き起こしつつもまとまった。
善逸が諦めた感じもあったけどちゃんと俺には気持ちがあったからまあいい。なくても後から気持ちが追いついてくれば俺はそれでもいいから、なんでもいい。とにかく俺は善逸を手に入れた。
やった!幸せだ!
この世の春だ!!
・・・・・・なんて浮かれていられたのはほんの僅かな間だった。いやもちろん今も俺はこの世の春だぞ。善逸が側にいてくれて、善逸が脇目も振らずに俺を見つめてくれてる間は。ちなみに脇目も振らずというのは精神の話でもあり、物理の話でもある。女の子にも甘味にもよそ見するな。俺といる時は俺の顔を見ていろ。
けどそんな世の中上手くはいかない。それは13歳のあの日からよく分かってる。骨身に染みている。
俺と善逸の交際は全く順調じゃない。男同士という枷は確かにあったが、秘匿すればないも同然だと思っていたのに俺が柱になり、17になった途端にあちこちから見合い話が舞い込んできた。それに善逸は嫌な顔もせずに俺が見合いに行くのを見送る。
もっと嫌だと言ってくれてもいいのにと思うけど、俺も上から言われれば断り切れない見合いが幾つかはどうしても出てきてしまう。そんな俺の事情を汲んで善逸は「気にせんでいいよ。お前の気持ちは分かってるから」と言ってくれる。
できた恋人と一言で言うのは簡単だが、俺には善逸が物分かりが良いだけで見送ってくれているのではないのを分かっている。
他にも押しかけ女房のように俺の家にくる女性が出来てしまっても、もちろん俺は全く望んでないものだぞ!?善逸はそれにも「良い男は大変だねぇ」とひと言だけで終わりだ。
何故だ!?もっとわがままや思ったことを自然に言って欲しい!!善逸はそんなに大人しい奴じゃないだろう!!いくら気持ちが通っていても嫌なものは嫌だろう!?
そんな俺が爆発してやらかして、俺たちの秘匿していた関係が明るみに出れば俺の見合い話はぴたりと止まった。俺はお館様に直々に謝罪までされてしまってそこの辺は少し心にきたが大体は嬉しいことだった。これで善逸との仲を邪魔されることはない・・・・・・なんて甘い考えに浮かれていたが現実はやはり甘くはない。世の中は上手くいかない。
訳がわからないし、何度も善逸に説明されても理解できないが世の中の人々は特に俺と善逸に深く関わりのない人々は俺たちの関係が気に入らないらしい。
ヒソヒソと善逸を悪様に罵り俺を誑かしているとか卑怯な手を使って手に入れたとかいい出す。日柱たる竈門炭治郎を惑わす悪辣な人物と人々が口々と言う。そしてそれだけでは飽き足らずに加えて善逸の習得している雷の呼吸にまで悪様な言葉が及ぶのだ。
曰く、雷の呼吸から鬼になった裏切り者が出た。
曰く、その育ては追求を恐れる余りに裁判も待たずに自死をしたらしい。
曰く、その裏切り者を倒すのに我妻善逸は躊躇をした結果、多くの隊士をいたずらに危険に晒したらしい。
そしてなぜ、我妻善逸は責任を取って腹を切らずまだのうのうと生きているのか。
俺はこのことを聞き及んだ時、頭の血管がブチ切れなかったのが今でも不思議だ。しかし噂していた奴らにしこたまどう言うことかと恫喝のような声を上げて迫ってしまったのは事実だし、落ち着けと伊之助に本気でぶん殴られて大喧嘩になったのも事実だったし、カナヲに呼ばれてやってきた善逸に蹴っ飛ばされて肋をやったのも事実だった。あれは痛かった。
「下級隊士を柱が恫喝するんじゃないよ?。それと雷の一門の問題は俺が背負うもんだからお前は口出し禁止ね。・・・・・・あと肋はごめん」
肋をやって蝶屋敷のベッドで寝てた俺に善逸は困ったように笑ってそう言った。その言葉を聞いて俺は気がついてしまったのだ。
俺は鬼になった家族、妹を助けるために鬼狩りになりそれこそ数えきれない悲劇の結末を見てきた。ぎしぎしと痛む胸や熱くなる目の奥をなんとこ受け止めながらも前に進んできた。俺は正しく、鬼になったものの悲劇やその身内の悲しさを知っていると思っていたがそれは誤りだったんだ。人の数だけ他者には踏み込めない悲しみや想いがある。
俺は善逸にひとりで背負うと言われてようやく知った。俺が何をしても心の中に踏み込みたい相手にその悲劇が降りかって俺はようやく分かったんだ。
他人には踏み込めない場所が必ずある。
よくよく考えてみると、善逸は俺よりも引きずって歩かなければならないものが多い。
例えば孤児という境遇。この境遇が不幸かどうかは俺が決めて良いものではないだろうから言及はしないが、少なくとも善逸は孤児で良かったなどと言ったことはない。
善逸が語らないから俺には推し量ることしか出来ないが、孤児がひとりで生きるのが楽なわけがないだろう。俺には想像もつかないことがたくさんあって、だからこそそんな世界を知る必要ないと善逸は教えてくれない。
俺が善逸に家族の思い出を語っては、優しい言葉に心の傷を撫でて癒してもらい瘡蓋にしていくのに対して俺は善逸に何も出来ないのだ。幸いなことに俺にも話したくもないと思ってる相手の過去を無理に暴くのは癒すどころかただの暴力だとは分かっている。
だからこそ俺は我慢している。本当は辛くて辛くて仕方がないし、知りたくて知りたくて、過去の出来事、辛いこと、泣いたことや誰かに縋りたかった時の気持ちとか全部全部が知りたい。
けど、そんなことは出来ないのは分かっている。
我妻善逸は俺が知る人間の中で最も心が強い人間だからだ。
善逸は苦しみも悲しみもそれこそ清濁すら簡単に飲み干せてしまう。いかに打ちのめされようと、誰かに手を引かれる必要もなく時期が来ればふらりと立ち上がりまた歩いていく。
善逸はそんなことないと言うだろうがそんなことがあるんだ。
俺は家族が殺された時も禰豆子がいたから立ち上がれた。禰豆子が鬼になったとしても生きていてくれたからこそ死ななかった。折れなかった。そうして折れずに歩いていけば、善逸はもちろん伊之助は義勇さんなど多くの人との繋がりや支えで俺はもっとしっかり立っていられるようになった。
刀鍛冶の里であわや禰豆子を失いかけたが、あの時の俺なら・・・・・・考えるのも嫌だが、例え禰豆子を失ってしまっていたとしても悲しみに暮れながらも今までの経過で得た人々との縁で前に進めただろう。そしてそんな俺を導くように、支えるように、禰豆子を失った片手を引くのは間違いなく善逸だっただろうと想像は容易い。
けれど善逸は違う。
兄弟子が鬼となり人を喰らい、尊敬して爺ちゃんと呼ぶほど慕っていた育てが腹を切り、善逸が望んで望んでようやく得た絆を、鬼となった兄弟子の頸を切らねばならないとなった時ーー善逸は俺に何ひとつ教えてくれなかった。
全てをひとりで飲み込んで、戦う覚悟を決めて、そんな中でも俺を労わるような言葉をくれて。
正直言って俺が生きていくのに善逸は必要だけれど、善逸が生きていくのに俺は必要ではないんだろう。愛がないとかそういうことじゃない。俺は長男だから我慢強いけど人と手を繋がないと生きてはいけない人間だ。だから善逸が必要だ。俺の手を繋いでくれるのは善逸がいい。
けれど善逸は打ちのめされても傷ついてもひとりで立ち上がって歩ける人間だ。一本の芯が入っておりそれは決して歪まない。孤児として生まれて聞き及ぶ分だけでも人との関わりや優しさに触れる機会が希薄だったのは伺いしれるのに。ではなぜあんなにも善逸は優しいのか。自分が信じるものを信じると言い切れるのか。
俺は性善説なんて信じているわけではない。否定的というわけでもないが、俺の鼻は人の内側を感じとるには非常に優秀で、こいつが生まれついて善人なわけがないという匂いを感じとるのはままあったからだ。
だがそれなら善逸の善性はどこからくるのか?
身体の中心に美しい泉でもあるのでないかと考えるほどだ。
正しく、善逸は強い。
心も体も規格外だ。俺と比べるべくもない。
そも雷に打たれて生きていて全身の毛の色と瞳の色が変わるというのを考えると善逸は一等神様に愛されているのかもしれない。神の愛を受けるとありとあらゆる面で孤高を強いられるのかと思うと腹が立つので考えるのはここまでにしよう。
つまりは何を言いたいかというと俺は全く善逸を守ってやれないし、善逸は守ってくれと口で言っても本心じゃないし、そもそも俺にできることなんて本当にないんだ。
それに!!めちゃくちゃ!!とんでもなく!!腹が立つ!!!
俺は目の前でガクガクと震える村田さんに恐らく、いや間違いなく手負いの獣のような目を向けているだろう。それくらい腹の中が煮えたぎっているのだ。もちろん村田さんは悪くはないが申し訳ないが冷静ではいられない。
「・・・・・・それで・・・・・・?その善逸はその一回抱かせろと強要してきた奴をどうしたんですか・・・・・・?ちゃんと全身の骨を折ってましたか・・・・・・?」
「怖っ!!全身の骨を折られたら死ぬからな!!あ、我妻は嫌そうな顔して無理って言ってたよ!ちゃんと断ってたよ!!」
可哀想なくらいに震えている村田さんだが、俺も負けないくらい震えている。怒りで。
なんでも俺の知らないところで善逸は新参の野郎の隊士たちに「柱が夢中になるくらいなんだからさぞ具合がいいんだろ?一回やらせてくれよ」と言ったような言葉を実はよく掛けられていたらしい。
ふざけるなよ?はあ?善逸は確かにものすごく具合がいいが、それは俺と善逸が長い時間をかけて頑張ってきたからだ。俺の抱きたい欲望を善逸が愛によって受け入れてくれて、2人で時間をかけて時間をかけて少しずつ少しずつ良くなるように整えていったんだ。ぽっとでの奴が興味本位で味わえるものとは違うんだ。
善逸の身体は!!俺の為だけに!!開発されてるんだ!!
「・・・・・・そうですか。寝耳に水です。教えてくれてありがとうございます」
俺はふーっふーっと呼吸を全集中の呼吸をより練り上げながら村田さんにお礼を言った。寝耳に水だったが、まあ内容からして善逸は口にしないのも理解できる。どうせ何も起こらないからないも同然とか考えてるんだろう。
まあ、いい。
善逸の好きにすればいい。
俺も好きにする。とにかく次にあったら時間が許す限りに抱いてやる。
となればすぐにでも会いたい。
俺はそれじゃあと村田さんに挨拶をして善逸の居場所を探しに行こうと思ったら、「待って!本題まだ!!」と呼び止められた。振り返ればすでに5メートルくらい村田さんとの距離がある。無意識に歩き出してたらしい。
「本題?ですか?」
「そう!今のお前に言うのすげー怖いけど大事なことだから言うぞ!!そのまま!!そのままの距離で聞いて!この後の殺意が怖いからそのままで!!」
村田さんがそう言うので俺は嫌な予感がしつつも黙ってそこに立ち止まった。村田さんはハァと短く息をすると嫌なものを見たというように顔を歪めて言った。
「・・・・・・実は、その我妻に粉かけてた奴と我妻が合同任務で我妻は負傷して蝶屋敷に運ばれたらしい。後輩に聞いたんだ!そいつら動けない時なら試せるんじゃないかなんて笑って話してたことがあるって!我妻が大丈夫かどうか後輩が心配してたんだよ!だから竈門!我妻のこと気をつけて・・・・・・ってもういない・・・・・・」
風を切るように走る。ビシビシと空気が?に当たり、景色が飛ぶように見える。俺は呼吸を全部足に回すと全速力で蝶屋敷へと走った。
蝶屋敷は俺たちにとっては憩いの場所で大切な思い出がたくさんあった場所なのに、それを塗り潰すかのように最近は嫌なことばかり起こる。
もちろんカナヲやアオイさんのせいじゃない。無遠慮に振る舞う奴らのせいだ。前も治療施設である蝶屋敷であるにも関わらず性根が捻じ曲がった人間が善逸に煮湯を浴びせたことがあり、俺は極力善逸を蝶屋敷には居させたくなかった。
しかし深傷を負えば治療のために蝶屋敷にまず運ばれてしまう。俺に鴉が来てないと言うことはそこまで深傷ではないか、運ばれて間もないかだ。何事もなければいい。しかし嫌な予感は往々にして当たるのだ。
俺は蝶屋敷の門扉を潜るとアオイさん達の挨拶も無視して鼻だけを頼りに進んだ。薬品の匂いの中に混じる血と善逸の匂いと・・・・・・浅ましい雄の欲望の匂い。
俺はざっと血の気が引き、そして沸騰する。
廊下の床板を踏み抜くほどの力を込めてさらに速く走ると匂いの中心である部屋の扉をひしゃげる程の勢いで開けた。そして目に飛び込んできたのは醜悪な人間が蹴り飛ばされて宙に浮いて天井に叩きつけられる瞬間であった。
「テメェらなんかにやるもんは髪の毛一本すらねえええんだよおおおお!!!」
遅れて響いてくる声に俺はすんっと真顔になりながらやっぱり善逸は強いなぁと思いながら善逸を囲みながらも戦々恐々としている輩達にお灸を吸えねばと部屋の中へと踏み込んだ。
[newpage]
「なあ、まだ怒ってんの?」
「怒ってない。いや、怒っているが善逸には怒ってない。負傷した足であの不届き者を蹴り飛ばした結果、怪我が酷くなったのに憤っているが怒ってない。仕方がない。もう少し俺が早く到着していれば良かったのに俺が一歩及ばなかったのが悪いんだ」
俺は自分の家の布団に横たわる善逸を見つめながら、なんとか腹の中の怒りが収まらないかと思ってみるがダメだ。無理だ。全然収まらない。
あの後は療養室の中は凄惨たる有り様だったらしい。らしいと言うのは俺にはそれが認識できなかったからだ。俺は至極真っ当に柱として善逸の恋人として一般隊士に鬼殺隊としての心得と人間としての道徳心をわかってもらうために教育的指導をしたのだがカナヲが飛んできて止められてしまった。そこから先は再度手当てをした善逸をアオイさんに持たされて気がついたら自分の家に戻っていたというわけだ。
そこからは善逸に「あの隊士達にトラウマ残るぞ!」とか、「顔が殺人鬼のそれだったぞ!」とか言われたが理解ができない。ちょっと分かりたくない。そんなことよりも俺には言いたいことが沢山ある。
「・・・・・・どうして善逸は言わなかったんだ」
「ん?何を?」
「・・・・・・その、男に下卑た扱いを受けているって」
「いや、受けてないし」
「受けているだろう!行動は含まずとも言動でもダメだ!!それと今回は未遂だったがあれも扱いの一種だろう!!」
「声がでけーーーよ!!俺の耳は繊細なんだ!!気を遣ってくれ!!」
両耳を押さえて茶化す善逸に俺は苛っとくる。雷一門に関してはまあ、うん、まったく納得できないし嫌だけど多少の譲歩はしよう。けどこの件に関しては引かないぞ。俺は善逸の恋人なんだ!!
恋人が!!
他の男に!!
襲われかけて!!
はいそうですかと退くのが正しい対応な訳がないだろう!!
「善逸。俺はお前の恋人だろう?」
「えっ?あ、うん?そうだね」
「俺は恋人が他の男に言い寄られるのは我慢ならないし、襲われかけたのを知って心穏やかにいられるのは長男でも無理だ」
「・・・・・・ええ。俺男だし、まあ、なんというか鬼は無理でも人相手ならそこそこやれますが・・・・・・」
「善逸」
「はい・・・・・・」
俺が引かぬと気がついたのか、善逸は布団の中で居住まいを正すと俺を見た。匂いを嗅ぐまでもない。その目にはまざまざと困ってますという色がでている。
「・・・・・・やっぱり鬼殺隊をやめよう」
「またその話かよ!!俺は辞めないって言っただろ!!」
「善逸はそのまま鬼殺隊にいればいい」
「はあ?」
「俺が1人で辞める」
「はあああああ!?えっ!?どういうこと!?日柱は!?」
「鬼殺隊を辞めて個人的に鬼狩りを続ける」
俺の言葉に善逸は愕然とした顔をした。まさしく何を言っているんだという表情だ。だが俺はもう決めた。周りが俺と善逸のことでごちゃごちゃと言うのなら、言われないようにする他がないだろう。
俺には何の謂れもこない。何故か善逸にばかりいく。腹が立つ。俺には何も言わぬ奴らがまた俺の大切な人を言葉で態度で傷つけるのが許せない。そいつらが言うには日柱という立場の俺に善逸が見合わぬと言うのなら、立場を変えればいい。しかし善逸は雷一門の件で鳴柱にはなりたくないのだから、立場が変えられるのは俺だけ。だったら俺が柱を辞めればいい。
けど柱を辞退して一般隊士になるのはお館様も認められないし困るだろう。ならいっそのこと鬼殺隊ごと辞めてやる。鬼殺隊から除隊してしまえば他の奴らは俺と善逸に関してあれこれいうことはできない。
・・・・・・まあ、好き勝手言う奴はさらに言うかもしれないが善逸を危険な目に合わせることはなくなるはずだ。
「俺は鬼殺隊を辞めて!!お前に毎日くっついて過ごす!!善逸と一緒に鬼狩りをする!!お前の任務についていく!!」
「ええええええ!?炭治郎なに言ってんだよおおお!?」
「これならば善逸に男が寄ってくるのも女が文句言うのも防げるだろう!名案だ!何で今まで気がつかなかったんだ!」
「いや何が名案なんだよ!全然名案じゃないよ!お館様が困るのが目に見えるぞ!!」
「それは分かってる。けど柱である俺と善逸を絶対に一緒の任務にしてくださいとお願いされる方がお館様は困るだろう。そんな贔屓は他の隊士に示しが付かない。だからこそ俺は鬼殺隊を辞める。辞めれば俺は自由だ。善逸に四六時中張り付いていても自由なんだ」
善逸は俺の言葉に上を向いて下を向いて首を左右にゆっくりと傾けると両手で顔を覆い指の間から俺を見つめた。
「炭治郎が発狂してる・・・・・・」
「してない。俺は向上心が強いんだ!!」
「向上心!?どこが!?」
俺はにっと悪うと善逸ににじり寄る。善逸はほんの少しだけ伺うような目をしたけれど顔を寄せれば心得たように目を閉じた。こんな荒れた話し合いの途中でも口付けと分かれば身を委ねる善逸が可愛い。好きだ。大切にしたい。誰にも不用意に傷つけさせたくない。
ちゅっと軽い音をさせて吸いて離れれば、善逸は少し物足りなそうな匂いをさせて目を開けた。続きはしたいが・・・・・・怪我もあるし無理はさせられない。それと俺はこれからやることがある。
この感情や行動が俺の勝手なものなのは分かっている。善逸は俺がいなくてもきっと上手くやっていくのだろう。傷つきながらも自分でその傷を治したりやり過ごしたりしてひとりで立ち上がるんだろう。そんなことは物凄い悔しいが分かっている。けど俺は善逸に俺が必要なくとも手を繋いでいたい。俺が善逸を必要だからというだけじゃなく、お前を守ってやれない俺にだって何か少しでもお前の中に残せると信じている。
雷一門の顛末を己ひとりで背負いたいなら背負えばいい。
お前が倒れないか転ばないか側で見ているよ。
お前が俺にいくら秘密を抱えてもいいぞ。
お前の大事な秘密はいつだって誰かを想っての秘密ばかりだ。まあ、甘味をくすねるのを秘密にするのは如何かと思うが・・・・・・その他のものは秘密を作るお前ごと愛そう。もちろん露見すれば叱るしお仕置きもするが甘えた声で「ごめんよぉ?たんじろぉ?」と言ってくれればそれでいいぞ。
お前に俺は必要ない。だけどお前の側で生きよう。俺と生きた何かの思い出が、いつか立ち上がるのが辛いお前の活力になるかもしれない。
だから善逸。
「俺はこれからお館様のところに行ってくる」
「いや待って。本当に待って?」
「待たない。俺は向上心が強いんだ」
「だからその向上心ってなによ!?」
俺の隊服に縋ってくる善逸の手を撫でてゆっくりと外す。向上心は向上心だ。他のなんでもないものだ。
「俺は善逸ともっともっとより良い生活がしたい。もっと一緒にいたい。善逸が傷つくのを全て防ぎたい。そう強く思っていて、それを実行するだけだ。ほら!これは向上心だろう?」
「・・・・・・こ、う、じょーしんかなぁ?辞めたら食い扶持どーすんの・・・・・・?」
「それはほら、善逸が働いてるから。善逸が俺と禰豆子を養ってくれ!そうか!それなら結婚だな!善逸が大黒柱なら俺が我妻炭治郎になるのも吝かじゃないぞ?」
「ひええええ!炭治郎が発狂してるぅぅぅ!!」
「してない。大丈夫だ善逸。全て俺に任せておけ」
俺はぽんぽんっと善逸の肩を軽く叩いた。確かに食い扶持の問題はあるが、善逸の任務がない時は炭焼きをしてもいいな。禰豆子も裁縫の腕があるから何とかなるだろう。
「善逸。俺はお前といられればどこでも極楽だ」
「ああ、そう・・・・・・?俺もそうだよ?」
「そうか!嬉しいぞ!だがやはり人は向上心が大切だ!!」
「また向上心・・・・・・」
「そうだ。向上心だ」
こくりと頷く俺に善逸は若干疲れたような顔で相槌をする。まあそんな顔するのも分からなくはない。俺も確かに正気ではないだろうなと思う。だが発狂はしてない。周りがなんと言おうと他に手は思いつかない。
「だから善逸。俺と一緒にもっと素敵な極楽に行こう」
「いや!言葉選び最低だな!!閨の助平な台詞かよ!!」
布団を叩いて叫んだ善逸に俺は心外だなあと思いながらも、確かに助平な響きだなと笑った。



コメント