約3000字/現パロ・キメ学設定
「竈門君。お願いがあるんだけど・・・・・・我妻先輩のこと紹介してもらえないかな・・・・・・?」
「えっ」
昼休み、今日は生憎の雨でいつも使っている中庭が使えないからと炭治郎は伊之助と教室で昼食の弁当を食べていた。いつもならば1つ学年が上で風紀委員である我妻善逸も交えてのお昼休みなのだが外は雨。雨の日は中庭が使えないため、学年が違う善逸は炭治郎達の誘いに乗らないのだ。善逸が言うには「上級生いたら気まずいだろ」であった。炭治郎は「俺は気まずくない!!」と言ったが「他のクラスメイトだよ!!」と言われてしまい、善逸のクラスに行くことも拒否されたので泣く泣く今日は寂しい気持ちで昼食をとっている。
そんな時にクラスメイトの女子に声を掛けられた。女子は炭治郎の前に立ち、冒頭の台詞を言ったのだが真剣な表情であった。その表情と我妻善逸という単語に炭治郎は脳内で『告白』という単語が浮かび上がる。まさか、そんな、善逸がと炭治郎はダラダラと冷や汗を流す。
「我妻先輩にどうしても頼みごとがあって・・・・・・お願い!!仲介して!!」
パシンっと手を合わせて拝む女子生徒に炭治郎は瞬間的に全身の力が抜けた。良かった。告白じゃないみたいだ。炭治郎はすっと背筋を直すとにこやかに笑って了承した。隣で伊之助が「変わり身はえー」と言っていたが炭治郎には意味はわからなかった。
****
「我妻先輩はいらっしゃいますか!」
「おーう。いるよー」
そう言って善逸のクラスに女子生徒を伴って赴けば、善逸は窓際の席で学園の三大美女である謝花梅の髪を結い上げていた。その様子にびっくりするも、善逸が「なに?なに?どうしたの?あ、ちょっと待ってー」というので炭治郎は教室の中に入っていく。じろりと梅が睨んできたが、炭治郎は気にせず会釈した。善逸は編み込まれた梅の髪をくるくるとねじり上げてお団子にしていく。そしてピン留めすると折角綺麗に作られたお団子をあちこちひっぱり、形を崩していく。
その様子を女子生徒と一緒に黙ってみていたが、そう掛かりもせずに「ほらよ。完成したぞ」と善逸は言って合わせ鏡で髪の仕上がりを梅に見せる。梅は「ふうん。なかなかの出来ね。褒めてあげるわ」と高飛車に言った。
「どうもー。んで?炭治郎はどうしたの?えっと、その子は?」
ちらりと女子生徒に視線をやった善逸に炭治郎は女子生徒がクラスメイトであること、そして彼女の名前、善逸に頼みがあるらしいことを伝えた。
「頼み?俺に?」
小首を傾げる善逸に炭治郎はどきりとするが、女子生徒はそんな炭治郎に気づくこともなく一歩前にでると言った。
「あの!わ、私にメイクして欲しいんです!」
その言葉に炭治郎は「はて?」と思い、梅は目を細めて気に食わない顔をし、善逸は「ああ、ジンクスのやつ?あれ嘘だよ?それでもいいならいいけど・・・・・・」と女子生徒の頼みをあっさりと聞いた。
****
我妻善逸にメイクをしてもらうと恋が上手くいく。そのジンクスはキメツ学園の文化祭にて善逸がヘアメイクブースをやったことから始まったらしい。実際に善逸がヘアメイクしてあげた女の子達は好きな人に告白されたり、告白がうまくいったらしい。
そもそもヘアメイクブースの宣伝に「恋愛運アップのヘアメイク!」とうたっていたようで、その効果にみんな驚いて一時期は文化祭後も善逸の元に女の子達が通うことになったらしい。
「いや、文化祭なんてカップルができる確率高いイベントじゃん。俺のメイクは関係ないよね」
善逸はそう言いながら、ヘアメイク用のボックスを竈門家のリビングにセットしていく。続々と出てくる道具に炭治郎は目を白黒させる。知らないものが、いや、見たことはあるが名称がわからないものがたくさん出てくるのだ。
「・・・・・・善逸はメイクが好きなんだな」
「え?ああ、まあね。ヘアメイクアーティスト目指してるし」
「えっ!?そうなのか!?」
初めて聞いた内容に炭治郎はびっくりするが善逸はあっさりと「うん」と短く返してくる。せっせと準備をする善逸に炭治郎は邪魔をするのもなんだから、あまり話しかけない方がいいのかとソワソワしていると玄関のインターフォンが鳴った。
訪れたのはクラスメイトの女子で、なんでも今日の午後に意中の先輩と2人きりで遊びにいくらしい。それで善逸のジンクスにあやかりたいと思ったのだ。
「我妻先輩、本当にありがとうございます。竈門君もありがとう」
そう言って頭を下げるクラスメイトは確かに気合を入れた可愛らしい服装をしている。実はメイクをするにあたり、ここ竈門家を選んだのには理由がある。これから好きな人に会いにいくというのに、女の子家に善逸が行くのも憚られるし、逆も然り。なので第3者である竈門家でやろうということになったのだが・・・・・・決して炭治郎が善逸と女子生徒を2人きりにしたくなかったわけじゃない。善意95%だ。
「いいよ?。じゃあ早速だけど、君が幸せになれるメイクしていこっか」
善逸はそう言うと女子の顔にメイクを次々と施していく。側から見ている炭治郎は何をやっているのか分からないが色々な種類のボトルから液体を出してつけていく。そして今度はチューブ上のものを取り出して顔に塗り、ブラシを持ち、女子の顔を僅かにだが変えていく。善逸の目は真剣だった。その真剣な横顔に炭治郎はなんとなく「いいなぁ」と思ってしまう。
炭治郎がぼんやりしていると気がついたらメイクもヘアセットも終わっていた。善逸はにこにこしながら「完成したけどどうかな??」と女子に鏡を見せている。
女子生徒は確かにいつもと違った。炭治郎はメイクをしている過程を見ていたから分かるが、知らねばノーメイクだと思うだろう。それくらい自然に、しかし圧倒的に何かが違う。
「すごい!ありがとうございます!髪の毛も可愛い??」
「喜んでもらえて良かった。ジンクスは宛てにならないけど、でも今日の君はすっごく輝いてるよ!自信持ってデート楽しんできて!」
善逸の言葉に女子生徒は嬉しそうに笑うと何度も善逸と炭治郎にお礼を言って竈門家を後にした。これから駅で待ち合わせらしい。
炭治郎は鼻歌を歌いながら道具をボックスに戻していく善逸を見ながらやはり「いいなぁ」と思ってしまうのだ。炭治郎も善逸に真剣な目で見つめられたい・・・・・・と、何故か思う。
しかしこんなこと言えないので、炭治郎は苦し紛れに少し疑問に思っていたことを口にした。
「・・・・・・思ったよりあっさり引き受けたな。男とデートのためにメイクなんて嫌がるかと思った」
炭治郎の言葉に善逸はキョトンとした顔をしたが、すぐに眉を顰めると吐き捨てるように言った。
「嫌に決まってんだろ!!男側には腹立つわ!!女の子がどこぞの男の為に可愛くなりたいの?ってお願いされると心がささくれ立つよ!!」
悔しそうに言う善逸にやはりそうなのかと炭治郎は乾いた笑いを零したが、善逸が「でも・・・・・・」と表情を緩めたのに息が止まる。
「好きの人の為に可愛くなりたいなんて健気じゃない?そのお手伝いを頼まれたら・・・・・・断れないよねぇ」
そう言って笑った笑顔に炭治郎はことりと何かが落ちた気がした。そして胸の辺りを撫で、再び鼻歌を歌いながら道具をしまう善逸に自然と「ああ、なるほど」と思った。女子生徒と2人きりにしたくなかったのも、真剣な目を向けて欲しいのもそういうことなのだ。
「善逸」
「んー?」
「俺にもいつかメイクをしてくれ」
「・・・・・・なんて?」
好きな人の為に可愛くなりたい。炭治郎は男だから可愛くなりたいわけではないが、少しでも好かれたい気持ちもジンクスにあやかりたい気持ちも分かる。だからいつか機会があったら、善逸にメイクをしてもらって、そして胸の内を解き明かそうと炭治郎は決めた。
そしてその年の『ドキッ!男だらけのミス?コン』にて善逸にヘアメイクをしてもらって出場しまさかのグランプリに輝き、壇上の上で善逸に告白する竈門家長男がいることをこの時はまだ誰も知らない。


コメント