宇宙的炭善と伊

宇宙に行って浦島太郎になる炭治郎とコールドスリープする善逸と見送る親分
4000字/超未来パロ

《ハシヒラ、イノスケ様がイラッシャイマシタ》
「OK。中に通して」
 善逸の言葉にAIロボは《カシコマリマシタ》と言って静かになる。善逸は慣れた手つきで天ぷらを上げ油の中きら引きあげた。宇宙暦が進み、なんでもAIやロボットが多くの雑務を引き受けてくれるようになったが、料理はやっぱり今も人間の手でやるのがいいと善逸は思っている。
 もちろん料理作成用のロボットもいるけれど、彼らの作る料理も美味しいけど、それでも大切な人や友人の身体を作るものだ。自分の手で作るのもいいものじゃないか。この話をするとネイチャー志向なんだねと言われるが、別にそういうわけでもない。ただ単純に「善逸の作るご飯は美味しいなあ」と特別な人に言ってもらえるのが嬉しいだけだ。
「料理はこれでよしっ!」
「おい紋逸ー来たぞー。おっ!天ぷらじゃねえか!」
「伊之助の好物だからな。今回の主役はお前じゃないけど・・・・・・でも、ま、最後だからな」
 善逸の言葉に伊之助はぐっと顔を強張らせて、そして息を一つ溢して微かに笑った。諦めたような、仕方がないというようなそんな笑みに善逸もぐっと涙がこみ上げそうになるが堪える。選んだのは自分達だ。
「んで?主役の権八郎は?」
「ああ、花屋に行っただけだからもうすぐ帰ってくると・・・・・・」
「ただいま!伊之助もう来てるんだな」
「ああ、来た来た」
 リビングに入って来た炭治郎は大きい花束を持っていた。青もメインに作られた花束は珍しい生花だ。今は人工的に作られて枯れないか花もある中で1週間程度で枯れる生花は貴重だ。
 伊之助は「はい、伊之助に」と差し出されたその花束を「いらねー」とは思うがこの花束は炭治郎と善逸の気持ちが篭っているのだから受け取らざる得ない。
「俺たちの勝手に振り回してすまないな」
「そういうのはもう言いっこなしってねず公が言ってなかったか?」
「うっ、すまない・・・・・・」
「分かってんだけどさぁ。なんかこう・・・・・・ついつい言っちゃうんだよなぁ」
 伊之助の軽い責めに炭治郎と善逸は座り悪そうにそう言った。この2人は自分達で決めたことに納得しているが、周りにそれを強いてしまうことには酷く恐縮している。炭治郎が選ばれた段階で、どうあがいてもこの未来は決まっていたのだ。仕方がないと伊之助は分かっている。
「早く飯食おうぜ」
「そうだな!善逸が作ってくれた折角の料理が覚めてしまう!」
「2人の好物いっぱい作ったからな!たくさん食べてくれよ!」
 善逸のその言葉に伊之助は「もうこれで食べられないのか」とほんの少し寂しさを感じたが、2人の背を押すと決めたのは自分だ。伊之助は苦い気持ちを海老の天ぷらと一緒に飲み込んだ。

*******

「テラフォーミング計画の第324班に所属することが決まった」
「・・・・・・マジかよ」
「マジだ」
 炭治郎に話があると言われて家に呼び出され、珍しく紋逸の姿がないなと思いながら話を聞いていたら冒頭の台詞を炭治郎に言われた。
 テラフォーミング計画は地球全体で取り組んでいるプロジェクトで、他の星を移住可能なように環境変化させる取り組みだ。それ自体はもうずっと昔から始まっており、今は人がだいぶ住めるようになった環境での研究や施設開発の段階だった。炭治郎は国連所属の技術者なので確かに選抜されてもおかしくない。
 そして選抜されたら最後、必ずいかなければならないのだ。なぜならまだ全人類が環境適合するほど、テラフォーミングされた星が安定していないからだ。だからこそ適合率が高いものが行くのだ。
「期間は?」
「1年間だ。・・・・・・けど、行って帰ってきたら100年経ってる」
 固い声でいう炭治郎に伊之助は呆然とした。分かってはいた。テラフォーミング計画に参加するということは星の海を越えるということだ。そこはとんでもなく距離があるもので、炭治郎には体感時間が僅か1年でも地球にいる側からすれば世紀が変わるくらい長い時間だ。
「・・・・・・善逸はどうすんだ」
 伊之助が思ったのは1人の友人の姿で、そしてその友人は炭治郎の恋人でもあった。学生の頃からの付き合いで、2人がお互いを大切に思っていて、欠けたらダメだということも伊之助にはよく分かっていた。
 炭治郎が地球に帰ってくる頃、残された善逸は地球に還っているだろう。残された善逸は1人で寂しく炭治郎を想って生きて死ぬのか?そして炭治郎は1年後に帰ったら知り合いが全て死んでいて、それどころか愛しい人もいないのに何を思って帰ってくるのか。伊之助は心配だった。2人が心配だった。
「・・・・・・善逸はコールドスリープで待つって言ってくれた」
「・・・・・・コールドスリープ・・・・・・」
 炭治郎の言葉に伊之助はホッとするも次に浮かんだの寂しさだった。善逸がコールドスリープで炭治郎を待つということは伊之助は炭治郎とも善逸ともお別れということだ。けど、2人が離れ離れになるよりずっといい。
「そうか。分かった」
「善逸は、今日、桑島さん達にその話をしに行ってるんだ」
「おう」
「俺も家族に話た。皆泣いてたけど、寂しいけど、それが言いって言ってくれた。だからあとは伊之助にも言わなくちゃと思って・・・・・・」
「おう」
「伊之助・・・・・・。俺と友達になってくれてありがとう。お前のもう1人の親友を・・・・・・連れて行ってごめん」
「気にすんな。お前らは自分達のことを1番に考えとけ」
 伊之助は俯くとズビッと鼻を啜る。風邪を引いたのかもしれないと伊之助は思った。

*******

「ごめんよ炭治郎。見送りいけなくて」
「いいよ。気にするな。俺の方のフライトの時刻が変わったんだからしょうがない。コールドスリープの予約時間は決まってるからな」
「そうだけどさぁ?」
「ははは。大丈夫、次に起きる時にはもう俺がいるから」
「・・・・・・うん!ちゃんと俺のこと起こしに来いよ!浮気は許さないからな!」
「そんな心配いらないよ。・・・・・・善逸、本当にありがとう」
「いいんだよ炭治郎。俺がお前がいないの嫌だってだけだから」
「・・・・・・なあ、俺は出てった方がいいのか?」
 炭治郎と善逸の2人のやり取りに付き合ってられないと伊之助は頭を掻いた。2人は顔を真っ赤にして照れたような様子を見せる。全く持って付き合ってられない。しかし、これももう見られないのだと思うと急に勿体なくも感じる。
「ああ、そろそろ時間だな」
「うん」
「楽しい夢を見てたらすぐだ」
「うん・・・・・・炭治郎の夢が見たいな。仕事、頑張れよ」
「ああ、それじゃあ・・・・・・おやすみ、善逸」
「うん。おやすみ。・・・・・・伊之助、じゃあな」
「・・・・・・おう。おやすみ、善逸」
 プシューという音と共に善逸のポッドの蓋が閉まる。すぐに睡眠剤の冷却剤が中に噴霧され、あっという間に善逸は氷漬けとなった。透明な窓から見える善逸は緩やかな表情で眠りについている。
「・・・・・・じゃあ、伊之助ともここでさよならだな」
「おう。まあ、頑張ってこい。俺が生きてるうちはこいつのこと見ておくからよ」
 伊之助の言葉に炭治郎は嬉しそうに笑った。そして炭治郎は右手を差し出してくる。伊之助はその差し出された手に目の奥が熱くなるが、それを振り切って手を取った。別れの握手のこの感覚をいつまでも残して置けたらいいのに。

でも、2人が幸せなのがいい。
それならこの別れだって祝福されるものなんだ。

そう思っていたのにーーー。

《本日、正午に打ち上げられた第324班を乗せたシャトルが打ち上げ直後、大気圏にて爆発しました。クルー達の無事はまだ確認されておらず、専門家の意見では生存は絶望的とのことです。続報が入り次第、お知らせをしてまいりますがーーー》

 そのニュース速報に伊之助は急いで駆け出した。シャトルバスに乗り、郊外へと行き、つい昨夜、赴いて半日も経っていない場所へと駆け戻った。認証登録していた故にIDと顔認証ですぐに施設内へ入り、唯一伊之助が入れるコールドスリープBOXへと飛び込んだ。室内にはひとつだけポッドが置いてあり、伊之助はそのポッドにかじりついた。
「善逸!!善逸!!炭治郎が大変だぞ!!シャトルが落ちたんだ!炭治郎が!!・・・・・・炭治郎が・・・・・・」
 伊之助はポットから覗く善逸の顔に息を止める。善逸は笑っていた。
「・・・・・・ああ、くそ・・・・・・」
 眠っている善逸は炭治郎の夢を見ているのだろうか。幸せに眠っているのだろうか。炭治郎が迎えに来てくれるのを・・・・・・幸せな夢の中で。
「・・・・・・・・・・・・」
 伊之助の目に生命維持装置を停止する赤色のボタンが見える。部屋に入れるものはコールドスリープ者の万が一の処遇を決める権利がある。炭治郎はそれに伊之助を選んでくれた。だから、伊之助には善逸の生殺与奪を決める権利がある。
 ボタンを押せば、善逸は眠ったまま死ぬ。炭治郎がどうなったか知らぬまま、幸せな夢の中で死ねるのだ。
「・・・・・・炭治郎・・・・・・善逸・・・・・・」
 伊之助は震える指で赤色のボタンへと指を伸ばした。

おまけ

ピリリリリ!
伊「うおっ!誰だって・・・・・・炭.治郎!?」(電話取る)
炭《あ!伊.伊之助!》
伊「!?」
炭《すまない、シャトル墜落のニュース見たか?》
伊「みた・・・・・・けど、なんでお前生きてんだ!?」
炭《いや、実は爆発することが寸前で分かったからギリギリで脱出ポッドで逃げたんだ》

伊「は・・・・・・?」
炭《クルー全員無事なんだ。ただ海に落ちたからすぐに連絡できなくてなあ。ごめん、心配掛けただろう。家族にも泣かれてなぁ。いやーそれにしても危なかった。危機一髪だったぞ!》
伊「あっ・・・・・・ぶねーにも程があるぞ!!マジで危なかった!!危機一髪だったぞ!?」

炭《あ、うん?そうだな?確かすごくギリギリだった。死ぬかと思ったぞ》
伊「おめぇぇぇのことじゃねぇぇぇよ!!」
炭《えっ?》
善 スヤァ…

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