そうだ。村田さんも呼ぼう。

2022年善誕生日祝いSS
現パロ、殴り書きです。

約5000字/現パロ/炭善

 その日が善逸の誕生日なんだってことを知ったのは、本当にたまたまだった。いつも通りに朝起きて、なんとなく眠気覚ましに善逸のSNSのアカウントを開いたんだ。そうしたら「ハッピーバースデー俺!!」なんて目隠しピースの写真が0時にアップされてて、俺は驚いたんだ。
 善逸とはただの先輩後輩で、風紀委員の善逸に校則違反のピアスを見逃してもらっているってだけの間柄。もしかしなくても俺は善逸にとっては厄介なだけの後輩かもしれなかったけど、死んだ父親から譲り受けたピアスを外す気にはなれなくて、俺はずっと善逸の優しさに甘えていた。
 そんな善逸の誕生日を知ったのだ。しかも当日に!俺はもちろんできる限りのことをしようと思った。これからパンを作るのだし、一つくらいなら善逸の為に何か作ることくらい簡単だった。でもただのパンだと芸がない。だからちょっとばかりケーキみたいな見た目のパンを作ることにした。少し大きめで、小さなホールケーキみたいな形で、チョコチップとアーモンドを使ったパン。
 俺はそれを持って、その日はちょっといつもより早く登校して、そして善逸に差し出したんだ。誕生日おめでとうって。ちょっとしたバースデーケーキみたいなもんですって言って。
 そしたら善逸はすごく喜んでくれて、俺もとっても嬉しくなった。迷惑をかけているとは思っていたから、これで少しは恩を返せたかなって思って……そしてそこから俺と善逸は仲良くなった。どれくらいかというと、毎日お昼を一緒に食べるようになるくらいで、お陰で俺は校門の服装チェックを見逃してもらっている分、善逸にしっかり迷惑をかけてもらえるようになって……。いやぁ、モテる為に人気の先生達に質問に行った時とか、結構大変だったぞ……。
 それはいいんだ。とにかく俺と善逸は仲良くなった。だからスタバとかにも放課後行ったりする。そんな時に俺はようやく知ったんだ。善逸が孤児だってことに。
 話はなんてことない。格安スマホの写真フォルダを漁っていた善逸が「あ、これ炭治郎が作ってくれたケーキだ」と言ってデレっと笑って見せてくれた写真は、その年の九月三日に俺が贈ったパンの写真だった。
 確かにケーキみたいな見た目に寄せたけど、ちゃんと善逸がケーキなんて言うから、俺は少し笑って……それはパンだよと言おうと思ったんだ。でも、言えなかった。だって善逸が「俺、孤児だから自分だけのバースデーケーキってこれが初めてだったんだよなぁ。えへへ。炭治郎、本当にありがとな」なんて言うから……俺はそれがケーキじゃないなんて言えなかった。
 いや、もちろん善逸だってあれがパンだってことくらい分かっているだろう。そういうことじゃないんだ。誕生日に、バースデーケーキとして誰かが用意したということが重要なんだ。分かってる。
 でも俺はその日の晩に布団の中で泣いた。善逸の友人としての寂しさと、切なさと、パン屋を営むプロとして意地が混ざり合って泣いたんだ。
 善逸の初めてをあんな簡単に済ませてしまったことを後悔したんだ。だって、初めてだったんだぞ?それを……もっと丁寧にして、もっと喜ばせてあげられていたらって……え?下ネタなんて言ってない。なんでそんな事を言うんだ?
 とにかく俺はあの日のケーキもどきに後悔したんだ。けど善逸は喜んでくれていたのは分かってる。作ったのは間違ってない。だけど不完全燃焼みたいな気持ちになったんだ!後からだけど!!
 だから俺は翌年の善逸のバースデーにリベンジすることを決めたんだ。その日から俺は定期的にケーキを作る練習もしていた。間違いなくこれぞバースデーケーキというものを善逸に差し出せると思っていたんだ。
 生クリームが乗って、苺が乗って……え?貰ってない?……うん。その、結局、翌年も俺は善逸にちゃんとしたバースデーケーキは渡せなかったんだ。そう、渡したのは焼き菓子の詰め合わせ……よく覚えてくれてるな?美味しかったから?ふふふ……ありがとう、善逸。
 あ、そうそう。それで渡せなかった理由だけど……その、その年は禰󠄀豆子に止められたんだ。俺は作って持っていくつもり満々だっんだが、直前になって俺の計画を知った禰󠄀豆子が「九月三日に生クリームケーキをホールで持ってこられたら善逸さんが困るわよ!!」って言われて、我に返ったんだ。禰󠄀豆子の言う通り、保存して置く場所がないからな。保冷剤やドライアイスを使っても安全な保証がないし、クーラーボックスに入れていっても、絶対に目立って冨岡先生に追いかけ回されてしまう。学校に持っていくのはどう考えても無理だったんだ。
 だからそれなら我が家で善逸のバースデーパーティーをすれば良いと思って、禰󠄀豆子も賛同してくれたんだが……え?パーティなかった?うん……今度は竹雄に止められてしまったから、パーティは出来なかったんだ。
 バースデーパーティを友達一家が開いてくれるのっておかしいんじゃないかって言われて……。俺だったら怖いって言われて……それで確かに俺もそんな事されたらちょっと怖いなって思ったんだ。でも善逸は家族がいないしって思い直して……同情をかけているのかと不快に思われて嫌われたらどうしようって気になり始めて……開催には至りませんでした。
 でもその時に俺は自覚したんだ。こんなに善逸に拘っているのは、善逸が好きだからって。俺が善逸を特別に好きだって気がついたのはこの時からだよ。俺は善逸が好きだから、誕生日っていう日に世界で一番幸せな気持ちになってほしいし、俺の手で笑顔にしたいって思ったんだ。
 うん……でも、それを自覚したら、今の関係性じゃ家に招いてケーキは渡せないなって思ったんだ。恋人になれたら、きっとうちでパーティをしてもおかしくない。けど、その時の俺たちは友達ってだけだったから……。だから俺は来年こそはバースデーケーキを渡そうって思ったんだ。できれば恋人になっていたいけど、なれてなくても、善逸は大学生になってるだろ?だから施設から出てるだろうし、一人暮らしの家に届けられるって思って……え?貰ってない?
 ……そうだよ。その年も渡せなかったんだ!!なんで?なんでって……覚えてないのか!?善逸が誕生日にバイトを入れたんだろう!!俺は驚いたぞ!?そりゃあ一人暮らしだから、バイトをしないといけないのは分かっているけど、誕生日にいれるか!?……首を傾げるな!!俺は覚えてるぞ!!善逸は!!バイト先の!!女の先輩がその日に誕生日だからってシフトを代わってあげたんだ!!自分だって誕生日なのに、人の誕生日を優先させたんだ!!
 ……しょうがない!?祝ってくれる人の方が優先!?俺は善逸の誕生日を祝う気満々だったんだ!!なのに善逸が優しいから俺はその機会を失ったんだぞ!?くそっ……!でも人のために譲ってあげられる優しい善逸が好きだっ……!!
 ああ、話が逸れたな。そう。とにかく三年目も俺は善逸にバースデーケーキを焼いてやることが出来なかったんだ。もはやタイミングが悪いどころか天に運を見放されているんじゃないかって。
 でもこの時は俺にもまだ慢心があった。善逸の予定をひと月前に押さえておけばいいだろうと思っていた事だ。でも実際にはシフト提出は店によってはもっと早いよな。だから次の年は絶対に二ヶ月前には善逸に誕生日をあけておいてくれるようお願いしようと決めていた。
 ……顔色が悪くなったな。そうだよな、分かってるよな。去年の話だもんな。そうだよ。俺は、俺は……!去年も善逸の誕生日ケーキを焼くことができなかったんだ!!今度こそはと思って、絶対に約束を取り付けるって決めてたのに、善逸が交換留学なんて決めてくるからっ!!
 いや、交換留学の権利を勝ち取った善逸は頑張っていた!!一年目からバイトしすぎじゃないかと思ってたけど、留学用の費用を貯めようとしてたんだもんな!寂しがりやで怖がりな善逸が海外留学だなんて意外だったけど……仕方ないよな。俺から逃げる為に善逸も必死だったんだもんな?

 ………………いま思い出しても腹が立つな。
 俺がこんなに善逸のことを思っていたのに、善逸は俺に脈がないと思い込んでおいそれと追いかけられないところに逃げ出すなんて……。

 え?追いかけて来ただろうって?もちろん、追いかけるに決まってるだろ。もし海外に行ったまま帰って来なかったらって思ったら、居ても立ってもいられなかったんだ。……とは言っても、そっちに行かれたのは四日くらいだし、行くのに何ヶ月も準備が掛かったけど……でもそのおかげでこうして善逸と恋人になれたんだ。あの出来事もきっと必要なことだったんだ。数ヶ月の遠距離恋愛は大変だったけどな。毎日毎日、善逸が寂しいってこっちの時差関係なく連絡してくるし……。

 落ち着け善逸っ!俺も嬉しかったよ!俺だって善逸に会えないのが寂しいって毎日思っていた!!でも俺から連絡しようと思う前に善逸から電話が来るから……あ、また話が逸れたな。そう。つまりだ……。俺は善逸にずっと誕生日ケーキを作ってあげたかったんだ。
 でもそれは四年も叶わなかった。俺たちの関係性とか、タイミングとか、そもそも勇気がなかったとかさまざまな原因はあった。けど今年は違う。俺たちは恋人で、善逸は誕生日の予定を俺の為に空けておいてくれた!今度こそ俺は万感の想いを込めて、善逸の誕生日を祝うことができる!!そう思った結果が……これなんだ。

****

 善逸はしょんぼりとする恋人に、先ほどから呆気に取られ続けている。ことの始まりは善逸が家に帰って来てから始まった。今日は善逸の誕生日で、朝から恋人とデート三昧だった。しかし恋人である炭治郎がどうしても手料理で祝いたいというので、善逸は家に帰って来たのだ。その際、炭治郎は一度自宅に戻っている。なぜなら善逸の家は一人暮らし用なのでキッチンに大した設備はない。
 車で料理を運んでくるからと言って、炭治郎は自宅に帰って行ったのだ。正直、一人にされるより二人で定食屋にでも行った方が嬉しい気もしたが、炭治郎が前々から気合を入れているのを善逸は知っていた。だから好きにさせてやろうと思って、遊び疲れたこともあり、夕方からちょっと昼寝と家でダラダラ待っていた。
 どうせ炭治郎は泊まっていくに決まっている。そうなれば夜は体力勝負となるだろうから、今のうちに眠っておかねばというつもりで、善逸はすっかり寝入ってしまった。
 そして眠りから覚めた時には、合鍵を持っている炭治郎が全ての準備を終わらせていたらしく、部屋にはそれは見事な料理の数々、そして豪勢なケーキがあった。
 そう。とんでもなく見事で、豪勢な料理とケーキだ。善逸は初め目にした時は、自分は寝ぼけているのかと思ってしまったくらいだ。なぜなら善逸の一人暮らし用の家に、優に八人前はありそうな料理と五段重ねのケーキがあったからだ。
 ちなみに恋人になってはじめてのバースデーなのだから、二人きりで誕生日パーティーをしようということだったので、この部屋の定員は二名である。しかし料理とケーキは尋常じゃない量だ。善逸は現実に眩暈がしながら、ほんの僅かに顔色が悪い炭治郎にどうしてこうなったのかを問うた結果……四年越しの、五年目の正直となった善逸の誕生日にかける炭治郎の情熱を聞いたというわけだ。

「分かった、分かったから。お前が俺のことをすごく想ってくれてるのは伝わった。ありがとな、炭治郎……!こんなに祝ってもらって、俺は幸せ者だよ……!」

「善逸っ……!」

「でも……とりあえず今日は伊之助と玄弥も呼んでいい?」

 二人きりでという話であったが、どう考えてもこの料理の数々は捌ききれない。善逸の家には小さな冷蔵庫しかないのだ。炭治郎が作ってくれた料理たちを捨てるなんて嫌だ。せめて最後まで誰かに美味しく食べてほしい。
 そう思いながら善逸は、来年の誕生日は炭治郎が落ち着いてますようにと今からちょっぴりだけ怖かった。

コメント

  1. 葉地花梨 より:

    た、楽しかったですwwwww
    「下ネタ??」と思ってたら同じつっこみがきていて「そうだよねえええええ」と熱い握手をかわしました。
    念願叶ってよかったね炭治郎!!
    善逸お誕生日おめでとう!!

  2. 水月鏡花 より:

    吉良さん、こんにちは。
    とても楽しく読みました。
    だんだんヒートアップして熱弁する姿が目に浮かびました。
    善逸の誕生日にかける情熱について、この炭治郎に勝る人はいないですね。
    来年は……幸せならいいと思います。

    • kira より:

      見てくれてありがとうございます!情熱が伝わったならうれしいですw
      前のめりになっていく様子が出てたならうれしいwありがとうございます!

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